コメットさんの日記
-心の闇3「アフガンの輝き2」


<その1での主な登場人物>
コメットさん:12才。ハモニカ星国の王女。「瞳に輝きを持つもの」とされるタンバリン星国のプラネット王子を探しに地球にやってきた。「星力」を使う事の出来る「星使い」でもある。バーバラさん、ムハンマドさん達の依頼で暫定行政機構の会議を成功させるためにアフガニスタンに来た。
メテオさん:12才。カスタネット星国の王女。コメットさんを追ってアフガンに来た。
ラバボー:コメットさん☆のお供&ペット
ムーク:メテオさんのお供

バーバラ・カーライルさん:28才。NYタイムスの新聞記者
ソフィア・ムハンマドさん:30才。かつてはマジャリシャリフ近郊の村の女性達のリーダー。今はアフガニスタンの暫定行政機構教育相
マフード・ファヒム大佐:56才。かつて北部同盟の司令官。現在は暫定行政機構副議長兼国防相
ハミド・カイザル:暫定行政機構議長






12/22 20:00(アフガン時間)(日本時間12/23 0:30)

 わたし達は首都カヴールを目指して南西に飛んでいた。隣国のタジキスタンから既にアフガン国内に入り、雪におおわれたヒンズークシ山脈が暗闇の中に見えているが、この前のように対空ミサイルが飛んでくることもない。この標高三千―四千メートルに達する山脈を超えるとやがて、前方に明かりが見えてきた。
「首都カヴールだわ。ラバボー。高度を下げて。」
「ハイ、ひめさま」

その時、後ろから
「コメット〜待ちなさーい。私を一人で置いていくなんてー」
との声と共に、もう一機の木のロケットが近づいて来た。
「メテオさん、わたし、これから北部同盟のマフード大佐とカイザル議長を仲直りさせにカヴールに行くのよ。ーあれ、メテオさん、大丈夫?星力、なくなりかけてるみたいだけどー」
「え?」
と言って慌てて後ろを振り返ったメテオさんはロケットの後ろから出ていた火が消えるのを見た。次の瞬間、
「なんでまたこうなるのよ〜」
との叫び声を残して、ロケットは急降下していった。

「あちゃ〜。大丈夫かな、メテオさん。」
「星力を補給するのをサボったせいだボー。あ、ムークさんに乗ったみたいだボー」
とラバボーははるか後ろ&下の方を見て言った。
「もうすぐチェックポイントだわ。そろそろ降りるよ。」
わたし達は郊外の草原に降りていった。そこには以前つけたチェックポイントがあり、
カヴール市内のポイントと結ばれていた。わたしはそこからバーバラさんに電話して
ホテルの近くの破壊された劇場前のポイントに迎えにきてくれるよう頼み、星のトンネルで
そこに向かった。わたし達がそこに着くと、すぐにバーバラさんがやってきた。
「バーバラさん、こんばんわ。寒いですね。」
「久しぶり!元気そうね。また会えてうれしいわ。」
バーバラさんはわたしの手をとって言った。
「わたしもよ。」
「さあ、行きましょ。ホテルはあっちよ。」
わたし達はホテルに向かった。ここ、カヴールは日本の盛岡市と同じ位の寒さで、思った
程ではなかったが、鎌倉よりはかなり寒かった。9階にある部屋に着くと、すぐわたし
は藤吉家に電話した。寝ているかもしれないと思ったが、景太朗パパも沙也加ママも
起きていた。やはりわたしの事が心配だったのだろう、わたしの声を聴いて少し安心した
ようだった。その後、バーバラさんにも出てもらった。

「二人とも英語うまいわね。今度は是非直接お会いしたいわ。」
「ええ。2人ともとてもいい人です。
「そういうあなたも。ーところで、明日の事だけど、あなた、本当に通訳出来るの?」
「ハイ。この姿でいる時はヌイビトさん達の力で地球上の全てのことばを話せるように
なってます。」

とわたしは答えた。もちろん英語でである。ちなみに、ハモニカ星国ではハモニカ語と
トライアングル星雲共通語であるタンバリン語が公用語だが、星国内では、ほとんどハ
モニカ語しか使わず、他の星国の人と話す時は、言葉ではなく、星力を使って相手の心
に直接呼びかけるのが普通だった。その方が自分の意志をより正確に、しかも内密に伝
えられるからだった。よって大人数での公的な会議や集会等を除いて、この方法がよく
とられた。話の内容が重要で他人に知られてはまずい場合は自国の人ともこの方法で話
すこともあった。わたしがかつてイマシュンやケースケにタンバリン星国の王子かどう
か尋ねたのもこの方法だった。
「25日午後3時から暫定行政機構の閣僚会議が大統領官邸であるのよ。だからそれまでに
何とか北部同盟とローマ・グループの人達を和解させて会議を成功させて欲しいの。」
「え!?後3日しかないわ。出来るかなーそんなこと。」
「あ〜らそんなの簡単よ!コメット。このキュービトがいれば」
「メテオさん、どうしてここに?」
「あの後、地上に落ちる前にムークに乗り換えてあなた達の後を追って来たから
に決まってるでしょ、話は聴いたわ。やっぱり思った通りね。こういうこともあ
ろうかとあらかじめキュービトを呼び寄せておいて良かったわ。後はキュービト
にカイザル議長とマフード大佐に矢を打ち込んでもらえばOKよ。オーホホホー。
じゃ私はこれで〜」


「今のがメテオさん?いい性格してるわね。私好きよ。」
「ちょっと強引な所があるけれど。本当はやさしくて、いい人です。わたしより『心の
闇』を見るのが上手みたい。でも、本当に大丈夫かな-キュービトなんか使っちゃって」
「あ、その『キュービト』って何?」
「ごめんなさい。まだ説明してませんでしたね。キュービトはラバボーみたいな小さな
星人さんで、人を好きにさせる力のある矢を持っています。これを2人の人に刺すと、
ラブラブになっちゃうんです。」
「要するに仲良くなるってことね、いいじゃない。」
「で、でも、前回はイマシュンと、わたしの代わりに刺されたラバボーがラブラブになっ
てしまってー完全に2人の世界に入ってしまって、もう大変でした。だからー」
「ちょっと、チョット、コメット!私の計画にケチをつける気?私だってあの時の
失敗はよく覚えてるわ。ダ・カ・ラ、今度はそれをふまえて完璧な計画を作ったのよ!
見て見て、このキュービトの新しい矢を。今度は恋力が徐々に働くようにセンサー
をつけたのよ。このリモコンでコントロール出来るようになってるわ。もちろん、
いざとなったらすぐ抜けるようになっているわ。オーホホホー。」
「メテオさん、すご〜い。それ、いつ作ったの?」
「ここにくる少し前よ。でも、そのお蔭で、星力、ちょっと使いすぎちゃったみ
たい。」
「そっか、だからあそこで星力、なくなっちゃったのね。でもほんとにこれー」
「すごいねーちょっと見せて。意外と小さいんだ。ね、試してみない?」
「ええ。バーバラさん。喜んで。行くわよ。キュービト」
「キュ、キュー」
「2人とも待って〜」
わたしは慌てて2人の後について行った。一階に降りると、ロビーの隣に食堂があった。
入り口で1人の少年とホテルの従業員が言い争っているのが見えた。
「調度いいわ。」
2人を見てバーバラさんは言った。
「そうね。キュービト、あの2人をやってチョウダイ」
「キュ、キュー!」
とキュービトは言うと、あっという間に2人に矢を命中させた。
「さあ、やるわよ。」
メテオさんがリモコンを操作すると、少年の胸ぐらをつかんでいた従業員はたちまち手
を離し、
「あれ、何で私がこんなことをしたんだっけ?」
と言った。
「ごめんなさい。僕が食い逃げをしようとしたからー」
「まあ、今回は見のがしてやるからーお、そうだ、今度うちで働いてみないかね。支配
人に紹介してあげるよ。」
「ありがとうございます。明日また来ます。」
「じゃあーおっと、君の名前は?」
「ハリーです。よろしく。」
「パダルだ。こっちこそ。じゃあな」

「す、すご〜い!メテオさん」
「あなたやるわね。これならうまくいくと思うわ。」
少年が出て行った後、わたし達が感心して言うと、
「まあ、ざっとこんなもんよ。わかった?私の計画の完璧さが。後はこれをどうやって
2人に刺すかが問題だけどー」

とメテオさんは得意そうに英語で答えた。覚えたのか、星力でそうしているのかわから
ないけど。
「そうだわ。明日10時から2人に会いに行くことになってるから、あなたもカメラマ
ンとして一緒に来ない?2人が話しに夢中になってる間にやればいいと思うわ。今夜は
どこに泊まるの?良かったらここにいてもいいのよ。」
「ありがとう。でも私はこんな所ではなくてワタクシにふさわしい、雪と氷のお城を少
し離れた所に作っってあるわ。それじゃ〜また明日〜。おっと、そろそろ、あの二人の
矢を抜かなきゃーこれでOK。ムーク、キュービト、帰るわよ。」
「はい、姫様」
「キュ、キュー」
そう言ってメテオさんは、小雪が舞い始めた中をムークに乗ってさっそうと飛び出して
いった。
「ほんとに大丈夫かな〜」
「何言ってんのよ。あなたらしくないわ。さ、もう寝ましょ。」
「そうだよね〜。」
わたしはバーバラさんの隣のベットにもぐり込んだが、なかなか寝つかれなかった。
「ねえ、ラバボー。起きてる?人のこころって、星力で操作出来るものなのかなー」
「え?何だボ?」
「人のこころって、星力で操ることが出来るのかな、そんなことしていいのかなーっ
て」
「ボーにはよくわからないボー。でも、平和のために使うんだから、いいんじゃ
ないのかボー。」
「それはわたしもわかってるつもりよ。でも、いくら平和のためとは言え、何か
違う気がするの。」
「そうかボー。でもひめさま、もう寝た方がいいボー。」

あーもう眠れないったら、眠れないわ!

と思わず言ってしまったわたしにラバボーはびっくりして
「ひ、ひめさま、どうしたのかボー。メテオさんみたいな言い方してるボー」
と言った。わたしは我に帰って
「え?わたし、どうしちゃったんだろう」と辺りを見回しながら言った。
「大丈夫かボー。またメテオさんと輝きが入れかわってしまったかと思ったボー。
さっきのひめさまはちょっとおかしかったボー。もしかして、メテオさんの方法
が思っていたよりうまくいったから、しっとしてるんじゃないのかボー」
「ラバボー!そんなことないよ!明日の事でちょっと気持ちが高ぶっているだけ」
「本当にそうかボー?。まあ、イイボー。ボーはもう寝るボー。」
「おやすみー。」

と言ったものの、わたしは、ラバボーの言うことも案外当たっているかもしれない、と
思いつつ、まだ眠れないでいた。バーバラさんは既にぐっすり眠り込んでいる。

「ああ、こういう時、ケースケがいてくれたら、わたしのこの気持ち、きっとわかって
くれると思うのにー。いつもなら、ここであの『声』が聞こえてきても良さそうなのにー」
「ねえ、ケースケ、返事して!」

とわたしはこころの中で叫んだ。
部屋の中がそれまでより真っ暗に見えた。

→その2へ続く