コメットさんの日記-最終章ーいのちの最後の輝き

 

その1の主な登場人物:

コメットさん:12才。ハモニカ星国の王女。「瞳に輝きを持つもの」とされる

タンバリン星国のプラネット王子を探しに地球にやってきた。「星力」を使う事

の出来る「星使い」でもある。かつてメテオさんを探しているうちネメシスさん

のいる病院に行き、そこで彼女と出会う。

メテオさん:12才。カスタネット星国の王女。コメットさんを追って同じくタンバリ

ン星国の王子を探しに地球にやってきた。身寄りのないメネシスさんに目をとめ、良き

理解者となる。「星使い」でもある。

ネメシスさん:65才。星国の人なのに星力を全く使うことが出来ないという、超特殊

な性質を持つ。このため両親の死後、カスタネット星国から地球にひとりやってきた。

ラバボー:コメットさんのお供&ペット

ムーク:メテオさんのお供

スピカおばさま:コメットさんの母の妹。日本に住んでいる。コメットさんの良き相談

相手でもある。

 

輝きの求道者:35才。この日記の作者。ネメシスさんのいる病院の臨床薬剤師。

 

佐也加ママ:景太郎パパの妻であり、ツヨシくんとネネちゃんのお母さん。

剛(ツヨシ)くん:4才。景太郎パパ達のふたごの兄

寧々(ネネ)ちゃん:4才。同じくふたごの妹

 

その1

 1/11 15:00

 わたしが街を歩いていると、黒い車が一軒の家の前に停まっているのが見えた。その

車には金色の屋根がついていた。

「ラバボー、あの立派な車は何?」

「ひめさま、あれは確か霊きゅう車といって死んだ人を運ぶための車だボー。この家で

誰かなくなったんだボー。ほら、あの人達みんな泣いてるボー。あ、こっちに来るボー。」

霊きゅう車がわたし達の横を通りすぎていった。

「あの車はどこに行くの?」

「ボーにもわからないボー」

わたしはさっきの家の人に聞いてみた。

「あの霊きゅう車、どこに行ったんですか。」

「この近くにある火葬場に決まってるだろ。そこでみ〜んな灰になってしまうんだ。」

「ありがとう。元気出してね。」

「あんたはかわいい顔をしているね。でも、いつかあんたもああなるんだよ。それじゃ」

と言ってそのおばさんは家の中に入っていった。

 わたしはこの時まで、自分の死について深く考えたことはなかった。わたし達、星使

いの平均寿命は約150才と、世界一長寿の日本人の約2倍である。そしてラバボーな

どホシビトは更にその倍の300才が平均寿命で、中には500才まで生きるホシビト

もいるそうだ。なぜそんなに生きられるかというと、まず、星国では戦争がなく、平和

である。次に星力でたいていの病気は治るし、かなり重い病気でも病院星へ行けば治し

てくれる。それに星国では地球より多くの輝きを受けることが出来、ストレスも少ない。ー

からではないかと思われる。そのため、星国ではひとが死ぬことが少なく、死を意識す

ることが地球より少ないのだ。しかし、ホシビトといえども永遠に生きられるわけでは

ない。いつかは死ぬのだ。ーわたしは地球に来て、アフガンで初めて、死んでいる人を

見た。またムシャラクさんが目の前で殺されかけるのも見た。しかし、この時はまだ死

を自分の事としてとらえることが十分出来ていなかった。ー

わたしはこの時、初めて「自分もいつかは死ぬ。」というあたり前のことに気づいた。

 

ーわたしは何のために生きているんだろう。わたしはいつ死ぬんだろう。死んだらどこ

に行くんだろう。死ぬってわたしにどんな意味があるんだろう。ー

 

などとわたしが考えていると、

「コメット!大変なの。ネメシスさんがまた倒れたのよ。今度は重い病気らしいわ。一

緒にお見舞いに行きませんったら、行きません?」

と突然メテオさんの声が聞こえた。

「それは大変!もちろん行くわ。」

わたし達はネメシスさんのいる病院へ歩いて向った。

「メテオさん、ちょっと聞いていい?わたし達、死んだらどこへ行くのかなー何で生き

ているのかなー」

「そんなのわかるわけないわ、ったらないわ。考えたこともないんだもの。何でそんな

こと聞くのよ〜。今が楽しければそれで十分じゃない。」

「わたし、自分がいつか死ぬんだってことに気づいたものだからーでもそうかんたんに

わかるワケないよね。」

「着いたわよ。」

わたし達は3階の個室に向った。

メテオさんがドアをノックすると、

「ハイ。どうぞ」

という、小さな声が聞こえた。

「ネメシスさん。こんにちわ。メテオです。おじゃまします。」

と言ったメテオさんに続いてわたしが中に入ると、ベットに横になっているネメシスさ

んの姿が見えた。

「これはメテオ様。コメット様までーご心配をおかけして、すみません。」

ネメシスさんはそう言うと、起き上がろうとした。

「こんにちわ。ネメシスさん。お久しぶりですね。無理しちゃダメですよ。」

「コメットの言う通りですよ。そうだわ、頭を少し上げましょう。ーこれでいいわ。ど

う?」

本当にありがとうございます。少しラクになりました。」

「メテオさん、本当に優しいのね。」

「私、ネメシスさんのことになると、放っておけなくてーやっぱり同じ星国の人だから

かしら」

「私もカスタネット星国のホシビトなのですがーちょっと扱いが違うかと思うのですがー」

「ム〜ク!何ですって!どこが違うのよったら違うのよ!」

「ふ、2人とも〜。ここは病室だよ。大きな声だしちゃダメだよ。」

「わかってるわよ、コメット〜。あ、ネメシスさんが笑ってるわ。」

「良かった。ところで、ネメシスさん、どうして入院されたんですか。」

「実は私は肺ガンという病気なのです。とても難しい病気で、よい薬がないそうです。」

「でも最近は今持ってきたような新しい薬も開発されてきて治るようになっているんだ。」

「か、輝きの求道者さん、いつの間にいらしたんですか。」

「こんにちは。ネメシスさん。メテオさん、コメットさん、初めまして。『輝き

の求道者』です。」

「あ、あなたが輝きの求道者さん。この前はどうもー。」

「いや〜こちらこそ〜。って危うく何をしにきたか忘れるところでしたよ。ネメ

シスさん、これが明日の朝までの薬です。こちらのカプセルがDACH・DGとい

う新薬です。今までの薬より水に溶けやすく、副作用が少なくなるように改良さ

れたものです。それからこの粉薬が解熱剤と抗生物質です。食後30分以内に飲

んで下さい。」

「はい。」

「それから、検査の結果が出ました。それによると、肺以外の所にもガンが出来

ており、この地球よりも高度な治療が受けられる星国で治療した方が良いかと思

われます。」

「あ、あの〜その『ガン』ってどんな病気ですか。」

「ごめん、星国ではほとんど見られない病気だったね。私達のからだはたくさん

の小さな細胞から出来ていて、肺は肺、肝臓なら肝臓の細胞から出来ているんだ。

細胞は毎日増えていて、古いものは死んで、新しいものに入れ代わっているんだ。

いつもは増え過ぎないように調節されているんだけれど、ガンになると、これが

うまくいかなくなって細胞が勝手に増えていって、からだを壊していくんだ。

星国では輝きによって守られているからガンになる人はほとんどいないと思うけ

れど、地球ではガンになる人が多くて、日本ではガンで死ぬ人が一番多いんだ。」

「じゃーこのまま地球にいたらネメシスさんも死んじゃうってこと?」

「それはわからない。でも星国で治療した方が治る可能性は高いと思う。」

「でもどうしたらーあ、カスタネット星国の病院星なら、治せるかもしれないわ。」

「私もそう思う。だからメテオさん。まずカスタネット星国に連絡して、ネメシ

スさんが病院星に入院出来るように手配してくれるかな?それから星のクルーザー

も呼んでおいて欲しいんだけど」

「わかったわ。」

「輝きの求道者さん、私は地球に来てから今まで一度も星国に帰ったことがありません。

私は実は生まれつき星力を使うことが全く出来ません。そのため、星国では生きていく

ことが出来ず、40年前、両親が死んでからは身寄りもなく、たったひとりで逃げるよ

うにして地球に来ました。私は星国では『変わった人』と見られていましたし、自分で

も『みんな星力を使うことが出来るのに、どうして私だけ出来ないんだろう』って、い

つも思ってました。それで地球に行けば、みんなと同じようになれる、と思っていまし

たが、何とか生きていくのが精一杯で、やはり、ひとりぼっちでした。最初のころは星

国と地球の習慣の違いにもとまどいましたしーそんな私が星国に帰っていいのでしょう

か」

「何を言ってるのよ!このままでは治らないかもしれないのよ。今帰らなければ2度と

帰れないかもしれないわ!大丈夫、カスタネット星国王女のこのわたくしがついてい

るんですもの。誰にもじゃまはさせないわ。ねえ、輝きの求道者さん」

「私もそう思いますよ。転院の手続きは私がしますのでご心配なく。」

「メテオ様。ありがたいお言葉、もったいなく思います。ご存じないかと思いますが、

実はかつて、お母様からも励ましのお言葉を頂いたことがあるのです。そのおかげで私

も何とか今日まで生きていくことが出来ました。」

「何ですって!あ、あのひとがー信じられない」

「でも、人は見かけによらないっていうしーあ、ごめん。でもメテオさんのお母さんに

もそういう優しいところがあるんだよ。ーネメシスさん、わたしも一緒に行くから、カ

スタネット星国に帰ろう」

「コメット様ー。わかりました。やっと帰る決心がつきました。」

「良かった。じゃあ、早速準備しましょう。メテオさん、何時位に出れそう?」

「これから連絡するからまだわからないけれど、多分5時半か6時位だと思うわ。」

「じゃあ、わたし、5時半にまたここに来ます。」

「わかったわ。遅れないでね。」

「ええ。ーみんな、また後で」

「コメット様。ありがとうございました。」

 

わたしは病室を後にすると、佐也加ママのお店に向った。ワケを話すと、

「そうー大変ね。気をつけて行ってらっしゃい。保育園には私がお迎えに行くからー」

と言ってくれた。

「いえ。まだ時間がありますし、わたしが行きますからーそれより、わたし、ちょっと

聞きたいことがあるんですけどー」

「何かしら。」

「わたし達、死んだらどこへ行くのかな、何で生きてるのかなーってことなんですけど」

「それは難しい質問ね。だって誰も見ていないんですもの。死んでから行く所なんて。

でもきっと楽しい所なんじゃないかしらー。それから人はやっぱり、自分のためじゃな

くて、誰かのために生きていると思うの。それが一番自然だからー」

「ありがとう。それじゃあ、また後で」

わたしはお店を出ると、ラバボーに言った。

「ラバボー。これからスピカおばさんの所に行くよ。今日は時間がないから、すぐ戻る

けどね」

「ラバピョンにまた会えるボー。嬉しいボー。」

 

わたし達は星のトンネルでスピカおばさんの家に行き、ラバボーはラバピョンに会いに

行った。わたしはこれまでのことをおばさんに話し、早速聞いてみた。

「私達星国の人は死んだら、その『いのちの輝き』を他の人にあげるの。地球の人

も多分同じだと思うわ。だから、死んだら新しく生まれ変わるんだと思うわ。どこか別

の所に行くのか、違う人になるのかはわからないけれどー。私は人は『自分の輝きを

誰かにあげるため、誰かと一緒に輝きを探すため』に生きているんじゃないかっ

て思うのよ」

「一緒に輝きを探すひとーって」

「私の場合は今は夫、そしてお腹の中のこの子もよ。そしてあなたの場合は『本当の王

子様』だと思うの。タンバリン星国の王子様かもしれないけれど。あなたにとってとて

も大事なことだと思うわ。だからこれはあなた自身で答えを見つける必要があるのよ。

あせらないで、ゆっくりでいいからー」

「あ、もうこんな時間。帰らなくちゃ。どうもありがとう。」

「気をつけてね」

わたしはラバボーを何とか説得してそこを後にすることが出来た。保育園に着いた時は

5時ちょうどだった。わたしは急いでツヨシ君とネネちゃんを家まで送って行き、それ

から病院に向った。病院の前に着いた時は、ちょうど5時半だった。

 

「コメットさん〜」

「ハ〜イ!って輝きの求道者さん!」

「ちょうど良かった。これからネメシスさんを私の車に乗せて海岸まで運ぶから

手伝ってもらえるかな?」

「ハイ」

わたしは玄関わきに停めたワゴン車から降りた輝きの求道者さんと一緒にネメシスさん

の病室まで行き、メテオさんと一緒にメネシスさんをベットごと車の後ろまで運んで来

た。それから、車の中のメテオさんが星力で作ったカスタネット星国の病院星にあるの

と同じベットにネメシスさんを移し、海岸に向けて出発した。5分程で海岸に着くと、

大きな帆船が現れ、まばゆい光が車を包み、気が着いたら船内にいた。車を降りたわた

し達の目の前に、

「ようこそ。わがカスタネット星国のクイーンエスメラルダス号、もとい、星のクルー

ザーヨ」

という声と共にメテオさんのお母さんが現れた。

「お、お母様。」

「メテオ。よく来たわね。みなさんをデッキへ御案内して。ネメシスさんは船内の病室

へ運ばせるわ」

「ハイ、お母様。」

「それではカスタネット星国へ出発!」船内にメテオさんのお母さんの声が響き渡った。

 

 

その2へ続くー