コメットさん☆の日記「星の絆2」
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その2(後編)-

12/2 8:55
 わたし達はヒゲノシタの案内で臨時裁判所に向かった。入り口でティンクルバトンを預けようとすると、
「姫様達はお持ちになっていて結構です。輝き自然度チェックをするまでもなく、法廷内でむやみにお使いに
 なるようなことはなさらないのは良く存じております。」
と輝き自然度チェックビトは言った。

 わたしとクラリスは右側の指定席に案内された。

「お早うございます。メテオ様。お久しぶりです。ムーク侍従長。今日はよろしくお願いします。」
「あ〜らクラリス。久しぶりね。どうしてラバボーの弁護人になろうと思ったの?ムークでは相手にとって
 不足だから?ムーク、あんたも見くびられたものね」
「姫様それはー。クラリス様。こちらこそ。ご安心下さい。前回のような過ちはもう2度と致しません。」
「わかったわ。」
「メテオさん。来てくれてありがとう。」
「いいのよ。コメット。この前みたいにムークを一人で行かせるわけにはいかなかったもの。それに、私、
 裁判なんて出るの初めてだし、ちょっとワクワクしているの。あなた達のお手並み拝見といくワ。」

「メテオさんー」とわたしが言った直後、
「皆さん静粛に!それではこれよりラバボーこと、ラ・ヴアルモット・プロボーネの特別臨時裁判を始めたいと
 思います。今回はコメット王女も本件の関係者として出席されることから、特別に国王陛下に開廷を宣言して
 頂きます。」
とのヒゲノシタ裁判長の声が法廷内に響き渡った。

法廷の中は人あるいは星人でいっぱいだった。入り口近くではヒデさんがカメラをまわしている。入り口から見て
左側が検察側、右側がわたし達のいる弁護側で、正面にはヒゲノシタ裁判長とカスタネット、タンバリン両星国の
裁判官の席があった。父はその上にある席から立ち上がって、

「これより、我が娘のツキビト、ラバボーこと、ラ・ヴアルモット・プロボーネの裁判を開始する。」
と威厳のある声で言った。いつも父の優しい声しか聴いたことのないわたしは少しびっくりしたが、同時に
「すごい〜」とも思った。

「それでは被告人入場!」という裁判長の声とともに、中央に被告人席がせり上がってきて、リゲル長官及び
マーズさんと一緒にいるラバボーが見えた。わたしは思わず、
「ラバボー!」と叫んでしまった。

「ひめさま!」とラバボーがこちらを振り向いて答えた。

「静粛に!ーそれではまず、検察官。ラバボーが『姫様ほったらかし罪』だと思う理由を言いなさい。」
「ハッ。まずはこれをご覧下さい。」と検察官が言うと、被告人席の前にある大きなメモリーボールの中に
 立体映像が現れた。

「これは前回ラバボーが捕らえられた時の映像です。タンバリン星国のワナとは言え、ラバピョンに目がくらみ、
 簡単に捕まってしまい、ひめさまの必要に答えることが出来ませんでした。」
「次にこれは今回ラバボーが捕らえられた時の映像です。前回と同じ手に引っかかり、連行されてしまったので
 ございます。」正面にはラバボーがラバピョンにおびき寄せられて、落とし穴にはまる様子が映し出されていた。
「ラバボー。被告人は捕らえられる直前、何をしていたのか?」
「ラバピョンと鬼ごっこをしていただボー」
「それは、被告人が地球に来た任務、『ひめさまと一緒にタンバリン星国の王子を捜すこと』と何か関係あるのか?」
「それはーラバピョンとただ遊んでいただけだボー。でもひめさまから許可をもらっているボー」
「それでは次にハモニカ星国王女、ラ・コメットJr・ハモニカ様にお聴きします。今のラバボーの言葉は本当ですか?」
「はい。わたしが許可しました。」
「わかりました。次にラバボー。ラバピョンと遊んでいた時に被告人はコメット様のことも考えていたか?
 被告人はたとえすぐお側にいなくても、ひめさまに何かあった時、あるいはひめさまが被告人を必要とした時、
 すぐに応えることが出来るよう、備えておく必要があるはずだと思うがー」

ラバボーは困った顔をして、しばらく考えていたが、やがて、「それは〜少しは考えてー」と言いかけたが、
しかし、それは
「いた、とは言えませんネ。ラバボー。質問には正直に答えて下さい。輝き自然度チェックをすればすぐに
 わかりますから。今後このように輝き自然度チェックに引っ掛かると、あなたの立場が不利になります。」
とのリゲル長官の声に制された。

「ワ、わかったボー。本当は何も考えていなかったボー」
「と、このように、ラバボーはひめさまのことなどすっかり忘れて遊んでいたのでございます」
「次にこれをご覧下さい。これはひめさまの番組のビデオからの映像でございます」

そこには、ラバボーがメテオさんの誘いに乗ってラバピョンとともに恋力を発動させ、メテオさんが初めて
恋力に目覚めた時の様子が映し出された。

「ラバボー。この時、被告人は一人で行動しているが、ひめさまの許可は得ていたのか?」
「ひめさまには何も言っていないボー」
「ひめさまにお聴きします。このことについてラバボーから何か聞かれましたか」
「いえ。何も聞いていません」
「つまり、ラバボーはこの時、ひめさまの許可なく、勝手に行動していた、ということになりますな、ひめさま。」
「ハ、ハイー」そう答えながらわたしは少し不安になった。
「次にラバボー、ワナかもしれないのに、なぜメテオ王女の誘いに乗ったのだ?『ワナでもいい』と映像の中で
 言っているが本当にそう思ったのか?」
「そ、それは、ラバピョンと一緒にいたかったからだボー。『ワナでもいい』と言ったのは確かだボー。
 でもあの時のメテオ様は悪いことをするようには見えなかったボー」

「ということはラバピョンと一緒にいたいばかりに、ひめさまの許可なく、メテオ王女に恋力を提供した、という
 ことだな。被告人はコメット様の付き人のはず。ひめさまのお供をし、そのお働きを助けるのが被告人の役目では
 ないのか?」

何も答えることが出来ず、今にも泣き出しそうになっているラバボーを見て、こちらも泣きたい気持ちになると
同時に、不安が更に大きくなった。
検察官はリゲル長官の方をチラッと見て、それから再び話しはじめた。

「それでは次に決定的な証拠をお見せしましょう。これをご覧下さい。」
そこにはラバピョンの家に行ったままなかなか戻ってこないラバボーをわたしが拡声器で呼び出すシーンが
映しだされた。

「ひめさま。この時ラバボーを何と呼ばれましたか」
「最初は名前を呼んだだけでした。それでも返事がないので、『ラバボー。はやく来ないと
「ひめさまほったらかし罪」で逮捕しちゃうよ〜。』と言ったと思います。でも冗談です。本当にそう思って
 言ったわけじゃありません。」
「しかしひめさま、それではなぜ『「ひめさまほったらかし罪」で逮捕しちゃうよ〜。』と言われたのですか。
 ラバボーを呼ぶためだけなら、もっと大きな声で呼ぶとか、星力を使ってラバボーの心に直接呼び掛けるとか、
 他にも方法はあったと思うのですが」
わたしはハッとした。

「ですからひめさまは本当はこのままでは本当に『ひめさまほったらかし罪』になりかねない、いや既にそれに
当たるのではないか、と少しでもお考えになっていたのではありませんか」
「そ、それはー」わたしは(やられた、さすがはプロだわ。)と思った。

「異議あり!裁判長、今の検察官の質問は自分の都合のいいように相手に答えさせようとするための、誘導尋問
 ではないかと思いますがー。」
「リゲル長官、今の弁護人であるムー・ヴァイツエン・クネーデル侍従長の意見についてどう思うかね。」
「輝き自然度チェックの結果、この意見を却下致します。また、ひめさまは『わからない。もしかしたら、
 そういう思いがあったかもしれない』と答えようとされていたと思います。その通りですね。ひめさま」
「ハイー」わたしはそう答えざるを得なかった。

「それでは次にひめさまにお聴きします。最近ラバボーの様子に替わったことはありませんでしたか」
「変わったことーそう言えば、ラバピョンの所に行く回数が増えたと思いました」そう言ってから、(しまった!)
 とわたしは思った。でももう遅すぎるー

「ラバピョンの所にはいつもひめさまも一緒に行かれていましたか。」
「いいえ。一人で行かせることも時々ありました。もちろん、全て許可しています」
「しかし、そう度々一人で行かれては困る、と思われたことはありませんか。正直にお答え下さい。」
「いえ。そんなことはー」と言いかけたわたしはリゲル長官の矢のような視線に気づき、あわててこう言い直した。
「え〜。確かにそう思った時も1度か2度ありました。」
「ひ、ひめさま〜」ラバボーが蚊の泣くような声で言った。
「以上のようにラバボーはラバピョンに会いたいという個人的な事のためにひめさまのお供をするという
 大切な任務を放棄し、時にはひめさまの許可なく、勝手に行動することさえし、ひめさまに多大なご迷惑を
 かけているのでございます。大体ひめさまにわざわざここに来て頂いていること自体、はなはだご迷惑なことだと
 思うのであります。しかも、このように思うのはわたくしだけではございません!まず、昨日放送された
 『ハモニカ星国ニュース』の中の緊急アンケートによると、星国の民約15000人のうちラバボーが有罪と思う者
 が60.8%と無罪と思う者の30.2%の倍以上もいるのです!。
 更にこれはひめさまの番組のホームページの掲示板に書かれたものです。

ーラバボーの「ひめさまほったらかし罪」について
ココロを鬼にして有罪に一票☆(許せ、ラバボーよ。)
理由:ひめさまのお供は『星国のからの命』であり、いくらひめさまの許しが得られたからといって、
簡単にその『役目を放棄』して良いわけがない。
しかもその理由が、大好きなラバピョンに会いに行くという完全な『私事』、という事実。
そして幾度となく繰り返される『役目を放棄』。これはもう言い逃れ出来ない事実です。
それはラバボー本人が一番わかっているはず…。
これはもう有罪。有罪で間違いありません。
(凡才・HIDEさんの投稿より)ー


この他にも昨夜までに同様の書き込みが230件程来ております!このように星国の民の多くもラバボーは
有罪であると思っているのです!!これらも重要な証拠として提出いたします!」
と検察官は大きな声で言った。そして、すっかりしょげているラバボーを見ながら
「本来ならここでラバボーに罪を認めるかどうか聞くところですが、これだけの証拠および、ラバボーの
 この様子を見れば、認めたも同然。これ以上よけいな質問をしてひめさまをわずらわせることもないかと
 思いましてー以上でわたくしの説明を終わります。」
と検察官は自信たっぷりに言った。

「それではここで一旦休廷とし、1時間後に弁護人の反論を始めることとします。被告人退場!」
とのヒゲノシタの声と共に、被告人席は床の下に消えていった。
ラバボーは下を向いたままだった。

ーちなみにβ星の自転周期は24時間6分、公転周期(ハモニカ星を一周する時間)は306日だが、
星国の時間や日、年月の単位は現在は地球と同じ原子時計をもとに決められており、地球(西暦)と全く
同じである。
また、地球には時差があるが、トライアングル星雲内はなぜか日本時間と同じトライアングル星雲標準時間で
統一されており、このため、時計は24時間のものが普通用いられているー


「チョット!チョット!あんた達、な〜ニやってんのよ!ヤラレっぱなしじゃないのよ〜
 このままラバボーが有罪になってもいいの!」
「メテオ様。次は何とか頑張りますからー」
クラリスもそう答えるのがやっとの様だった。

わたしは逃げるように法廷から飛び出すと、たまらなくなって一人で泣いた。自分はラバボーを助けるために
来たハズなのに、自分の言葉がかえってラバボーを追い詰める結果となってしまったことが悔しくて仕方がなかった。
もっと違う言い方は出来なかったのか、自分は何てバカなんだろう、とも思っていた。
その時、あの声が聴こえた!

「バ〜カ、いつまで泣いてんだよ。オレはまだあきらめちゃいない。オレは、ラバボーの無実を信じてるぜ。
『星の絆』でラバボーが星力と一緒におまえの方に向って来た時、お前はラバボーをすぐに受けとめることが
出来なかったろ。ラバボーを助けたかったら、あの時どうすればラバボーをすぐに受けとめることが出来たかを
考えるんだ。
お前達が昨日見た映画の1シーンを思い出せばすぐにわかる。ラバボーとの絆を信じるんだ。」

「コメット!今の声は何?」
「クラリス、あなたにもあの声が聴こえたの?あれはケースケの声だわ」
「そう、あれがあなたの恋人の声なのねーなかなかいいこと言うじゃない。わたしにもそんな人が欲しいわ、
 何て言ってる場合じゃないわね。ーわかったワ。ケースケ君が言った映画のシーンが」

「それって、もしかして、パート1の終わりの方のー」
「そう、時計塔からカリオストロ伯爵によって蹴落とされたクラリス姫が湖に向って落ちて行くシーンよ。
 あの時、クラリス姫の下にいたルパン3世がすぐにクラリス姫の方に飛び込んで、空中でクラリスに追い付いて
 彼女を抱き、そのまま一緒に湖に落ちていったのよ。」
「そうか、わかった、つまり、ケースケはあの時、わたしはラバボーが来るのを自分の今いる場所から動かずに
 ただ待っているのではなく、今いる場所から離れてラバボーと一緒に落ちていればすぐに受けとめる事が出来た
 ハズだって言いたかったんだわ」。
その時わたしの心にひとすじの光が差し込んで来たー

「そうよ。コメット。つまり彼は今までお前達はラバボーを助けようと、一段高い立場にいたからダメだったんだ。
 ラバボーを助けたかったら、ラバボーと同じ立場になって、ラバボーと一緒に落ちる所まで落ちる必要があるんだ、
 って言いたかったのね。ーさすがだわ。
 ーコメット、もうあまり時間がないわ。ムーク弁護人達と一緒に急いで対策を練り直しましょう」

「ええ。わたし、ラバボーと一緒に落ちる覚悟は出来ているわ」
わたしは自分が輝きを取り戻したことを感じながらそう答えたー

それからわたし達は一時間近く、色々話し合った。それから再び法廷に向った。ドアの前でクラリスがこう言った。

「さあ、反撃開始よ!」ー



→その3へ続く