今日は帰りのバスがない日。
あれから、沙也加ママのお店のお手伝いをしていたコメットさんは、
今度は、保育園までその足で剛くんと寧々ちゃんのお迎えです。
そして、保育園にやってきたコメットさんは、
何だか様子がいつもと違うことに気がつきました。
「なんだか騒がしいぼ」
園舎の中から大きな声や物音がします。
何かが暴れているのでしょうか?
「剛くんと寧々ちゃんのクラスみたいだぼ」
「行ってみよっ!」
コメットさんが星組、つまり、剛くんと寧々ちゃんの教室に行くと、
そこは騒然とした修羅場になっていました。
剛くんが他のクラスの男の子と取っ組み合いの大喧嘩を繰り広げていたのです。
「剛くん!!」
コメットさんが慌てて剛くんを止めようとしますが、
剛くんの耳にはコメットさんの声は届かなかったようです。
むりやり押えようにもケンカが激しくて手が出せません。
「やめて!」
「ツヨシくん!」
「ケンカしちゃだめー!!」
亜衣・麻衣・美衣ちゃんが訴えますが、それでもケンカはおさまりません。
「フォルテッシモ、喧嘩はいけませ〜ん! アダージョ、落ち着くです〜!」
パニッくんも騒々しくパニック。
パニッくんのパニックはいつものことですけれど、今日は一段とパニックしているようです。
「ツヨシくん、怖い……」
今まで見たことも無いぐらいの血気あふれる表情に、
寧々ちゃんはすっかり怯えてしまっています。
「見てられないぼ。星力使ってでもとめるぼ!」
「う、うん」
コメットさんはラバボーの言葉に慌ててティンクルバトンを取り出しました。
でも、その時です。
「こらっ! 剛くん、聖夜くん! やめなさい!!」
有希先生の大きな怒鳴り声が響きました。
突然の声だったので、コメットさんは思わずビクッとすくみあがってしまいました。
それは、みんなも同じだったのか、みんなビックリして有希先生の方を振り返ります。
剛くんと聖夜くんもです。
「もぅ! 2人とも何でケンカなんかしたの?」
有希先生が怒った顔で腰に手をあて、2人を問いつめます。
「ツヨシが悪いんだ!」
「セイヤが悪いんだ!」
お互いがお互いを指さして声を張り上げます。
今にもまたケンカを始めてしまいそうな勢いです。
「それだけじゃわからないでしょう。何があったのか説明して。ね?」
有希先生が2人にそう言いましたが、2人とも怒りが収まらないのか、
黙って睨み合ったまんまで何も話そうとしてくれません。
「あのね、ネネちゃんたちがクリスマスのお話してたら、
セイヤくんが『サンタなんているもんか!』って言ったの。
でも、ツヨシくんが『サンタさん、いるもん!』って言い返して、
それでケンカにな……」
その様子を見ていた寧々ちゃんが2人の代わりに説明をしました。
しかし、その時。
聖夜くんはそんなネネちゃんを遮るように悲鳴のような声をあげました。
「去年、父さんが僕の枕元にプレゼントを置くのを見たんだ!
でも、次の日、父さんと母さんがサンタさんからだって笑ってた。
父さんも母さんもサンタさんはいるなんて言って、僕をダマしてたんだ!
ずっと信じてたのに……。
うぅ……」
そういうと聖夜くんは悔しそうに握り拳を作ると、
目から涙を溢れさせ、大声で泣き出してしまいました。
12月24日の夜に生まれたから、聖夜。
そんな名前を持った聖夜くんです。
人一倍、サンタクロースのことを信じていたのです。
「そ、それは……」
剛くんは言葉を失ってしまいました。
それは、みんなも同じこと。
あたりは聖夜くんの辛そうな泣き声だけが聞こえています。
ぽつ……。
ラバボーはティンクルスターに水滴が落ちるような音を聞いた気がしました。
「姫様……」
ラバボーがティンクルスターの中から見上げると、
悲痛そうな顔をしたコメットさんの目から涙が一筋流れていました。
「聖夜くん……」
有希先生は、しゃがみこむと聖夜くんの目をみながら言いました。
「きっと、サンタさんは忙しくって聖夜くんの家まで来られなかったのよ。
だからお父さんとお母さんに代わりを頼んだんだと思うな」
「そうだよ。きっと、今年は来てくれるよ。
ツヨシくん、サンタさんを探し出して頼んでみる!
だから、もう、泣くな!」
剛くんが真剣な目で聖夜くんを見つめ、そう言いました。
「寧々ちゃんも頼んでみる!」
寧々ちゃんも続きます。
「亜衣も!」
「麻衣も!」
「美衣も!」
「僕もフォルテッシモ頼んでみます!!」
「ワイもサンタを探して頼んでやるで〜!!
いやだ言うたらドツいたるねん!!」
亜衣・麻衣・美衣ちゃんやパニッくん、源ちゃんも続きます。
「………みんな」
聖夜くんが静かに泣きやみ、みんなの顔を見渡します。
「わたしも頼んであげる」
「コメットさんも、ススッとサンタさんを探してお願いしてあげる!」
有希先生やコメットさんも続きます。
「僕も〜おねがいしてみる〜」
みんなから遅れて太一くんも続きます。
「……うぅ……僕が…僕が……うわぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜ん」
そんなみんなの言葉を聞いた聖夜くんは、
おもむろに火のついたように泣き出してしまいました。
だって、聖夜くんだってサンタさんを信じていたのです。
いいえ。本当は、今でも信じたくてたまらないのです。
信じることができなくなるような事実をつきつけられてしまったとしても。
だから、みんなの言葉が本当に頼もしくって、
みんなの言葉にまたサンタさんのことを信じることができる気がして、
申し訳ない気持ちと嬉しい思いで胸が一杯になってしまったのです。
そして、その日は、とりあえず、みんながそれぞれサンタさんを
探してお願いするための作戦を考えてくるということで解散しました。
<つづく>