「サンタはどこへ消えた?」
<その1>

年末も押し迫った12月の下旬のある日こと。

朝、いつもと同じぐらいの時刻にいつものように目を覚ましたコメットさん。
着替えてから下に降りると、剛くんと寧々ちゃんが楽しそうにモミの木を飾り付けて
いました。

「剛くん、寧々ちゃんおはよう」
「あ、コメットさん! おはよう!」
「おはよう!」
「何やってるの?」
「クリスマスツリーの飾り付けだよ」
「飾り付けだよー」
「クリスマスツリー?」
「もうすぐクリスマスだからね」
「そうそう、もうすぐクリスマス」

「??? クリスマス……って、何?」

コメットさんは「?」と言った表情で首を傾げました。
コメットさんにとっては地球に来て初めてのクリスマス、知らないのも無理はありません。

「コメットさん、知らないの?」
「知らないのー?」
「うん。コメットさんに教えてくれる?」

コメットさんがそう言うと、剛くんと寧々ちゃんが教えてくれました。

「クリスマスは、サンタさんがやってきてプレゼントをくれる日なんだよ」
「良い子だけにプレゼントくれるんだよー」
「そう。だから、ツヨシくんはもらえる。でも、ネネちゃんはもらえない」
「ツヨシくんの方がもらえないんだよー!」

あらあら。喧嘩になってしまいました。
取っ組み合ってほっぺたをひっぱり髪をひっぱり大変です。

「剛くん! 寧々ちゃん!
 ケンカなんかしてるとサンタさん、プレゼントくれないよ!」

コメットがそう言ってとめると、2人はピタリと動きをとめました。

「ケンカしてない。ツヨシくん、ネネちゃんとなかよし」
「なかよしなかよし」

コメットさんの言葉がよっぽど効を奏したのか、
2人で手を取り合って笑顔を作り、なかよしさんを一生懸命アピールします。

「あはは。仲良しさんが一番だね」

何はともあれケンカが収まったのでコメットさんもニコニコ。

「あはははは……」
「あはははは……」

もともと仲良しさんの剛くんと寧々ちゃんです、
コメットさんにつられて笑っているうちにケンカのことなんか忘れてしまいました。

「そうだ! コメットさんも一緒に飾り付けしようよ!」
「しようしよう!」
「わーい。きゅっと楽しそう!」

そして、3人は楽しそうにクリスマスツリーの飾り付けを始めました。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

一方、風岡家。

メテオさんは、イマシュンが出るということで、朝からテレビにかじりついていました。

「ねぇ、ムーク」
「なんでしょう、姫様?」
「最近、CMでクリスマス、クリスマスって言うけど、何なの?
 なんだかロマンチックそうなイベントみたいだけど……」

イマシュンの出番を待ち焦がれつつテレビを見ていたメテオさんが、
ふと、ムークに尋ねました。

「あ、ほら、このCMもクリスマスセールとか言ってるわったら言ってるわ」
「クリスマスとはキリスト教という宗教の記念日で、
 神の子であり救世主とされるイエスの誕生を祝う日となっています。
 つまりは神の子の誕生日ということですな。
 ただ、この国では宗教的意味は失われ、その前日であるクリスマスイブに、
 パーティーを開いたり恋人同士がデートするだけの日になっているようです」
「恋人同士がデート?
 じゃ、じゃあ、しゅ……」
「残念ながら、瞬様はクリスマスコンサートの予定が入っておりますゆえ」
「そ、そうだったわね」

メテオさんはそう言ってガックリと肩を落としました。
ムークにチケットを取るように手配させたのですがチケットが手にはいらなかったのです。
実のところ、ムークはメテオさんがイマシュンと仲良くなるのを警戒して、
わざとチケットを買わなかったのですが。

「忘れておりましたが、クリスマスイブの夜にはサンタクロースという者が、
 世界中の子供たちにプレゼントをくれるのだそうです」
「へー。それってわたくしも入るのかしらったら入るのかしら?」
「おそらく。」

そう答えて、メテオさんには聞こえないぐらいの小声で続けました。

「ただ、良い子にだけプレゼントを渡すと言われるサンタクロースが、
 我が姫様にプレゼントを差し上げられるかどうか……」

「なんですって、ムーク?
 わたくしが良い子ではないと言いたいのかしらったらかしら?」
「いいえ! そんなめっそうな!」
「なら、いいわったらいいわ」

ムークのボヤキは例によって例のごとく、
メテオさんの耳に聞こえてしまってしまったようです。

「そうだわ、プレゼントは何をリクエストしようかしら?
 瞬様のCDにしようかしら、それとも瞬様のポスター?
 あぁ〜、何にしようか迷っちゃう〜」

メテオさんは勝手に一人の世界に入ってしまったようです。

しばらくして。

「そうだわ!! サンタクロースを捕まえてしまえばいいんだわったらいいんだわ!
 そうすれば、プレゼントもよりどりみどりつかみどりじゃないのったらじゃないの!
 そうよ、わたくしは全てを手にいれるの!
 子供たちへのプレゼントも全部わたくしのものよ!!!
 オーホホホホホ……」

メテオさん、何をどう考えたのか、そんな結論に達してしまいました。

「姫様……お言葉ですが、サンタクロースは……」

ムークはメテオさんを止めようとしましたが、
聞いてくれなさそうなので放っておくことにしました。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

「いってらっしゃーい!!」

ツリーの飾り付けをもっとしたいと渋る剛くんと寧々ちゃんをなだめて、
保育園の送迎バスに送りに込んだコメットさんは、
剛くんと寧々ちゃんを乗せて走り去る保育園バスに向かって手を振りました。

「さて、と。じゃあ、ススっとお店にお手伝い行こうか」
「たしか、今日はお店の模様換えをするはずだぼ」
「うん、昨日から模様換えするのよってはりきってたね。
 どんな風にするんだろう? キラっと楽しみ☆」
「沙也加ママのセンスは良くわかないから、不安だぼー」
「あはっ!」

そして、コメットさんがお店に行くと沙也加ママは模様換えの準備をしていました。
模様換えの飾りの入った箱の中には、キラキラした色とりどりのモールや雪に見立てた綿、
さらに柊のリースやサンタやトナカイの人形などが入っていました。
いわゆる、クリスマス系飾り物一式です。

「わー! 素敵ー!」

コメットさんはその色とりどりの飾りに歓声を上げました。

「クリスマス向けの飾りよ。素敵でしょ?」
「はい、とっても素敵です☆」
「ウチではね、クリスマスシーズンはクリスマス向けの小物を売ってるのよ。
 それで、このシーズンはお店もクリスマス仕様に模様替えするってわけ。
 さ、お客さんが来る前に模様替えしちゃいましょ」
「はいっ!」

そして、沙也加ママとコメットさんはお店の飾りつけを始めました。

レイアウトがなかなか決まらなかったり、失敗してしまったりしましたが、
でも、2人は始終ウキウキワクワクでニコニコ。
2人とも瞳をキラキラ輝かせて、今朝、ツリーの飾り付けをしていた
剛くんと寧々ちゃんに負けないぐらい夢中で楽しそうです。

そして、お昼過ぎ、やっと、いいえ、もう、模様替えは終わってしまいました。

「あ〜楽しかった」
「そうねぇ。でも、おかげで、ほらっ! お店がこんなに綺麗……になりすぎたわね」
「そうですね……」

2人揃って苦笑い。
お店の中は商品を置くスペースが残ってないほど飾りで一杯です。
売り物だったものまでみ〜んな飾り付けに使ってしまっていました。
2人とも夢中になってやってたので気づかなかったのです。

「今年はコメットさんがいて楽しくって、つい、はりきっちゃたわ。
 ほら、こういうのはみんなでやると楽しいでしょ?」
「ええ。みんなでいっしょにやるのは楽しいですよね」
「でも……どうしようかしら。
 模様替えやり直すにも、なんだか、疲れちゃったわ……」

沙也加ママ、コメットさん以上に張り切ってたのでグッタリさんです。

「あはっ。
 あとは私が何とかしますから沙也加ママは奥で休んでいてください」
「コメットさん一人で大丈夫?」
「はい、大丈夫です。
 お店番の方もやっておきますから、ゆっくり休んでいてください。」
「本当?」
「ピキッとまかせてください!」

コメットさん、自信満々そうに笑顔を浮かべました。

「じゃあ、お言葉に甘えてお願いしちゃおうかしら。
 すぐもどってくるけど、あとはよろしくね。」

疲れきった沙也加ママがお店の奥に引っ込むと、
コメットさんはティンクルバトンを取り出しました。

「星力で模様替えするのかぼ?」

ティンクルスターの中からラバボーが尋ねました。

「早くしないとお客さん来ちゃうもん」
「それがいいぼ。お客さんが来る前にさっさと済ますぼ」
「うん。……エトワール☆」

コメットさんがバトンを振るとお店の中は一変、
あっと言う間にお店の飾りつけが適度なものに替わりました。
ついでに商品も棚に陳列です。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

20分ほど休んでからお店に戻ってきた沙也加ママはビックリ。
何しろ、ムチャクチャにゴテゴテと飾り立てまくっていたのが、
すっきりとちゃんとした飾り付けになっていて、
さらにそのうえ、お店の商品の陳列まで済んでしまっていたのですから。

「コメットさんが全部やったの?」

沙也加ママは信じられないという顔をしてコメットさんを見ました。

「はい。
 あ、でも、星の子たちも手伝ってくれましたから。」

レジに立っていたコメットさんは平然とした笑顔で答えました。

「星の子? なーに、それ?」
「あはっ」

自分で言っておいて、笑ってごまかしてしまうコメットさんです。

と、ドアがバタンと開く音がして、最初のお客さんが入って来ました。

「いらっしゃいませー!!」

コメットさんと沙也加ママの声がハモります。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

それからというもの、お客さんでごった返すというほどではないものの、
お客さんがちらほらとお店に来るようになりました。
子供を連れたお母さんや、きゃーきゃー言ってる制服姿の女学生たち、
どこかの教会のシスターさんやどっかのお寺のお坊さん(!)など、お客さんはいろいろ。
やってきたお客さんは、みんな、クリスマス用の小物のコーナーを見ていきます。
中には、それだけではなく、鹿島さんの流木アートなどの他の品物を
何かのプレゼント用に買っていく人も何人かいました。

「クリスマスの小物、良く売れますね」
「最近は、ああいった手作りの飾り物とか飾り物ってなかなか売ってないものねぇ。
 だからけっこー評判なのよ。ウチの商品。
 他のモノもこれぐらい売れてくれるといいんだけどねぇ……」

そう言って沙也加ママが苦笑しました。

「あはっ。
 あの、そういえば、グッズの他にプレゼントを買っていく人が多いんですけど、
 12月生まれの人って、そんなに、多いんですか?」

コメットさんの素朴な問いに沙也加ママは「え?」という顔をしました。

「やーねぇ、みんな、クリスマスプレゼントよ」
「クリスマスプレゼント…………?
 それってサンタさんがくれるんじゃないんですか?」
「あら、サンタさんがいっぱいいたっていいじゃないの。
 クリスマスはみんながサンタさんになれる日なの」
「みんなマネビトさんなんですね」
「う〜ん……、たぶん、そうなんじゃないからしら」

沙也加ママは「マネビトさん」とか言われて訳がわかりませんでしたが、
しかし、わからないなりに言いたいことがわかった気がしたので、そう答えました。

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