コメットさんの日記「わたしはだれ?」
ー後編ー


11/18 15:00

「あれがそうよ」

私達は病院のすぐ近くにまで来た。

「あ、メ、いやひめさまだボー。ボーの言った通りだボー」
見ると、私そっくりの姿をしたコメットがドアを入るのがチラッと見えた。

「コメットさん。どうしてここに来たのかな。ーえ、コメットのくせが
うつっちゃったじゃないの!」

「ヒメさま。そんなこと言ってる場合じゃないボー。早く中に入るボー」

「そうだね。あ、また〜」

私達はコメットの後を追って病院の中に入った。ー

ー☆☆☆ー

ー病院についたわたしはナースステーションでネメシスさんの病室を聞いた。

「203号室。ここね。-こんにちは、メテオです」
わたしがドアをノックして言うと、

「まあ、メテオ様。本当にいらして下さったんですね!どうぞ、お入り下さい。」

とドアが開いて、60才位の優しそうな婦人が顔を出した。

「失礼するわ」
わたしは中に入り、用意した花束を渡した。

「どうもありがとうございます。メテオ様。助けて頂いた上にこんなことまで-」

「いいのよ。カスタネット星国の王女として当然の事だわ。それより、わたくしの
友人のコメット王女がここに来ませんでした?」

「いいえ、メテオ様。昨日あなた様が帰られてからここには誰も来ておりませんが」

「そう-」とわたしが言いかけた時、

「ネメシスさん、こんにちは。メテオさんの友達のコメットです。いらっしゃいますか?」
とドアの向こうで声がした。

「どうぞ。コメット様。メテオ様もお待ちですよ。」

(ムークさんの言う通りだわ)とわたしが思っているとドアが開いて、わたしそっくりの
姿をしたメテオさんが
「ネメシスさん、初めまして。ハモニカ星国の王女、コメットです。よろしくお願いします。」
と言った。

「こちらこそ。コメット様のことはメテオ様から色々お聞きしました。」

「コメット、遅かったわね。わたし、あなたを探したのよ。」
(タマにはこういうの。言ってみたかった!スーっとしたわ)

「そう、私もあなたを探したんだけれど、見つからなくてー」
(モ〜コメットったら!後で覚えてらっしゃい!!そうか、わかったわ。こうやって
わたくしを人前でバカにする作戦だったのネ!。
「姫様、それは姫様がいつもコメット様にされていることでは〜でもコメット様はお気に
なさらぬご様子〜。」ムーク!どこ行ってたのよ!
「姫様それは後で、それより、姫様は本当にコメット様がそんな事をするとお考えですか。
今日ご一緒した限りではとてもそのようなことをされるとは思えませんが〜」
確かに、今日はコメットの姿でしばらく街を歩いたけれど、コメットのことを悪くいう人
は誰もいなかったわ。それに引き換え、私の方は、あんまりよく思われていないようね。)
-などと私が考えていると、

「コメット!何ボーっとしてんのよ!今日どうしてわたくしがあなたをここに呼んだか
わかってるでしょ?早くヌイビト達を呼んで」

「あ、そうか。忘れてた〜。私が看護婦さんになってネメシスさんを直してあげれば
いいんですよね。」

「そうよ。-ネメシスさん、足の具合はいかが?」

「ええ。もう大分いいのですけれど、まだ少し痛みます。それより胸の病気が少し悪い
ようなので、退院出来るまで少し時間がかかると思います。」

「ネメシスさん、用意が出来ました。まず足の方から直しますので」
と看護婦になった私がちょっと不安そうに言うと、

「大丈夫よ。コメット。あなたならきっと出来るわ。この前もツバメを治してあげたじゃ
ないの」

とコメットの優しい声が聴こえた。私はハッとして思わず、

「メテオさんー」とつぶやいた。

「コメット様。ここなのですが」

「わかったわ。」
私は必死でコメットがツバメにした通りにしてみた。すると、ネメシスさんの顔が一瞬
変わったことに気付いた。

「次は胸ね。どこが苦しいんですか。」

「この辺りです。」

私が再び手を当てると、ネメシスさんの顔が驚きの表情に変わった。

「ハイ。これでおしまい。いかがですか。」

「もうすっかり良くなりました。ありがとうございます、メテオ様」

「エ、どうしてそれをー」と思わず言ってしまった私に、

「さっき、触れられた手の輝きは明らかにカスタネット星国、メテオ様のものでした。でも、
どうしてコメット様のお姿に」

それを聴いた私は体の緊張が一気に抜け、思わずネメシスさんに抱きついて泣いてしまった。

「わたしからお話しします。実はー」

わたしとメテオさんは今朝からの出来事をネメシスさんに話した。

「そうですかーそれはお2人とも大変でしたわね。ご両親には話されましたか。」

「いえ、まだーあっメテオさん、その手があった。ティンクルホンでわたしの母に電話して。
『お悩み解決ビト』を呼んでもらうから。」

「お悩み解決ビト?」

「困っている時に助けてくれるの。メテオさん、最初はあなたがかけてね。番号はこれよ」

「わかったわ。ーあっもしもし、お母さん。え?ーコメット、あなたに代わってって。
どうしてわかったのかしら。」

ティンクルホンを渡しながらメテオさんは不思議そうに言った。わたしが電話に出ると、

「あ、コメット。その声はどうしたの。何か困ったことが起きたのでしょ。」
と母は言った。

「実はーー」
とわたしがこれまでの事を話すと母は

「そうー。それは大変だったわね。あなたの様子はここから大体わかってたわよ。そろそろ
あなたから電話がかかってくる頃だと思ってたわ」
とやさしく言ってくれた。

わたしは思わず泣き出しそうになるのを押さえながら、

「お母さん、お悩み解決ビトを送って欲しいの」

「そうあなたが言うと思ってもうそちらに向けて出発させたわ。もうすぐそちらに着く頃よ。」

「ありがとう。お母さん。でも、最初に電話に出たのがどうしてわたしじゃないってわかったの?
わたしそっくりの声なのに。」

「もちろん、あなたの母親だからよ。あなたもそのうちわかるわ。」
とちょっと得意そうに母は言った。

「お母様ったら」

「また何か困ったことがあったら言ってね。」
そう言って電話は切れた。

「お悩み解決ビト、もうすぐ来るって。お母さんがもう出発させた、って言ってたわ」

「もう?ー」
とメテオさんが言いかけた時、窓の外にキラっと光るものが見えた。

「来たみたい。わたし、迎えに行って来ます」

「コ、コメットー。どうも手際が良すぎるわ。何か変よ。」

走っていくわたしの後ろで、メテオさんがそうつぶやくのが聞こえたー

 ー「な〜るホド。コメット様がおやすみになられたのが午前3時近く。メテオ様はその前で、
お2人とも起きられたのが8時前ということですな。お2人のお話しはよくわかりました。」

「それで、原因は分かったの?」
とわたしが聴くと、

「ええ、まあ、このお悩み解決ビトに解決出来ない問題はございません。これは流れ星の影響に
よる『輝き交代症』でしょうな」

「輝き交代症?」

「ひめさま。明日の午前2時から4時にかけてしし座流星群は極大を迎えます。」

「極大?」

「そう。星が最も多く流れる時間のことです。非常にまれなことではあるのですが、実は私達、
星国の者は流れ星が非常に多くあると、その星力の影響を受けて、輝きが不安定となり、時には
他の人と輝きが入れ代わってしまうことがあるのです。お互いの年令や性格等が近い場合に限ら
れるようですがー」

「でも、わたくしとコメットは全然違うじゃないの!わたくしはカスタネット星国、コメットは
ハモニカ星国の人よ。服装や髪型、声だってーそれに性格も全然違うじゃないの!」

「お言葉ですが、メテオ様。お2人はメテオ様がおっしゃる程違ってはいらっしゃらないと思い
ます。お2人とも年令は体型はほぼ同じ、星国の王女であられます。それぞれ星力をお使いになり、
ラバボー、ムークというお供がいらっしゃいますし、地球にタンバリン星国の王子様を探しに
来られたのも同じ。そしてお2人がここにいらっしゃることが何よりの証拠でございます!

「どういうこと?」

「コメット様。あなたはどうしてここに来られたのですかな?」

「それは〜わたしがもしメテオさんだったらどうするだろう、ってずっと考えていたら、ここに
来たんだけれど」

「メテオ様は?」

「私も同じよ。私がもしコメットだったらどうするだろうって考えていたら、ここに着いたわ」

「と、いうことは、お2人とも結局同じ事を考えていらしたのですな。」
この言葉にわたしはハっとして「確かに、そうだわ」と言った。

「まあ、それはともかく、お2人が元の姿に戻られるためには方法はたった一つしかございません。」

「え!!元に戻れるの!!」

「私、そのためだったら何でもしちゃいますわったらしちゃいますわ!」

わたし達は嬉しさのあまり、飛び上がって叫んでしまった。

「お、お2人とも 、お気持ちはわかりますが、ここは病室でございますー」

「あ、これは失礼!ネエ早く2人が元に戻る方法を教えてったら教えて〜」

「わかりました。メテオ様。それはまず、『お2人の輝きを完全に一つにすること』です。」

「輝きを一つにする?」

「そうです。コメット様。約11時間後にしし座流星群の最初の極大が来ます。その星力を
借りて、輝きを一つにするのです。」

「どうすればいいの?」

「今夜11時頃から星が流れ始めます。少し練習した方が良いと思いますから、その時に
ご説明します。コメット様」とお悩み解決ビトは言った。ー

11/18 23:00

 わたし達はネメシスさんに別れを告げると星空の下に飛び出して行った。

「あっ、流れ星!」
とわたしが言うと、

「どうやら星が流れ始めた様子。ひめさま。出来るだけ高い所まで、行って下され。」
とお悩み解決ビトが言った。

「この辺りでいい?」成層圏に達した頃、わたしは聴いた。

「ハイ。ここまで来ればよいでしょう」

「あっ、また星が流れたわ。お悩み解決ビト、わたし達はどうすればいいの?」

「ひめさま。まず星力をお集め下さい。」

わたし達は星力を集めた。

「次に、少し離れてお立ちになり、合図と共にお2人が同時にバトンをお相手の方に投げて
飛び上がり、お互いの手を合わせます。その時、流れ星の星力が十分にあり、かつ、お2人の
お気持ちが全く一つになっていれば、お2人の輝きが完全に一つとなるハズです。でも、少し
でもタイミングがズレたり、星力が十分にないと、輝きが完全には一つとなりません。極大
にはまだ十分時間がありますから、まず一度試してご覧になって下さい。」

「わかったわ。メテオさん、イイ?」

「いいわよ。コメット。」

「それじゃ、1、2、の3、でいくわー1、2、の3、エトワール!
あ、ごめん。まだメテオさんの姿のままだった。もう一度いくわー1、2、の3、シュテルン!」

「エトワール!ーキャッ!コメット、何やってんのよ!ぶつかっちゃったじゃないのよ!」

「ごめんなさい。思ったより難しいのね。」

「そうネ。コメット。でもやるしかないワ。」と言ったメテオさんの顔は真剣だった。ー

11/19 1:00

 それから約2時間が過ぎた。流れ星の数は大分増えてきていた。しかし、わたし達はまだ
タイミングをうまく合わせることが出来なかった。

「あちゃーま〜た失敗!メテオさん、わたし達ってやっぱり一つにはなれないのかなー」

「何言ってんのよコメット!あなたらしくないわ。このままの姿でいたいの?
私はゼ〜ッタイ、イヤだわ」

その時、

「おまえ達、何やってんだ。もっと相手のことをよく見ろよ。おまえ達は自分の力で相手に
合わせようとしてただろ。それじゃダメなんだ。相手の輝きを信じ、自分を相手にまかせるんだ。
ちょっとコワイかもしれないーでも大丈夫。オレだって最初はそうだったんだからー」
という、あの懐かしい声が聴こえた。

「ケースケ!ケースケなのね!心配したわ」

「オレは大丈夫。オレもおまえ達の輝きを信じるから、頑張れよ」

その時、ひときわ明るい星が流れていった。

「ケースケ〜!」

わたし達の中で何かが変わった。

「じゃあ、もう一度行くよ。」
とわたしは言った。そしてメテオさんめがけて飛び出した。

「やった!」
その時、初めて2人のタイミングが合い、手をピタリと合わせることが出来た。

「コメット、やっとわかったわ。このタイミングね。」

「ええ。少し休みましょ。極大まではまだ1時間くらいあるわ。」既にたくさんの星が流れる中、
わたし達は一旦地上に向った。ー

11/19 2:00

 わたし達は再び星空にまい上がった。

「きれいー」
明るい星が次々と目の前を流れていくー中には火の玉のように見えるものもあった。

「コメット。流れ星を見ている場合じゃないわよ。もうすぐ最初の極大だわ。星力を集めましょ」

「そうだったわ。そろそろ始めましょう」
わたし達はバトンを合わせると言った。

「幾千億の星の子達。わたしに力を下さい。流れる星の輝きをわたしの星力に変えて」

すると、いつもよりはるかに多くの輝きが集まってきた。わたし達のバトンは白く輝いた。

「星力、足りそうね」

「うん、メテオさん。」

わたし達は再び向かい合った。

「コメット。そろそろ極大の時間よ。用意はいい?」

「ええ、いいわ」

わたし達はお互いを見つめると、呼吸を整え、相手の心に意識を向けた。すると、お互いの心が
一つにつながったのを感じた。(今だわ)

「シュテルン!」
「エトワール!」

わたし達はバトンを投げると、飛び上がった。そして2つのバトンが交差した下で、
互いの手を合わせた。その時、2人の体が白く輝き、2人の輝きが一つになるのを感じた。

「やったわ!」

わたしは落ちてきたバトンをとって、言った。が次の瞬間、

「あれ、これはメテオさんのバトン、せっかく2人の輝きが一つになったのに、戻ってない
じゃないの〜」
とわたしは自分の姿を見て言った。

「ウ〜ン。やはり星力が少し足りなかったようでございますな。」

「お悩み解決ビト!輝きが一つになったのに、どうして元に戻れなかったの」

「それは、お2人が元に戻られるためには、それまでのご自分を超える必要があるからで
ございます。お2人は日々成長されています。今日のひめさまは昨日のひめさまとは違うのです。
先程は星力が少し足りなかったために、反対側ではなく、ご自分の元いらした場所に戻られた
だけだったのです。次の極大には今の4倍位の星が流れると思いますから、今度こ大丈夫だと
思います。ひめさま、今度輝きが一つになったら、勇気を持ってそれまでの御自分を飛び越えて下さい。

「わかったわ」
とわたしは確かめるように言った。ー

11/19 3:30

 ついに最後の極大の時が来た。星は雨のように流れていた。わたし達が星力を集めると、
わたし達のバトンは先程より更に強く輝いた。

「メテオさん、今度は大丈夫そうね。」

「ええ、コメット。でもこれが最後のチャンスよ。失敗は許されないわ。」

「わかってる。用意はいい?」

「ええ、いいわよ」

 わたし達は再び向い合うと、心を合わせてこう言った

「幾千億の星の子達。わたし達に力を下さい。流れる星の輝きをわたし達の星力に変えて。
エトワール!・シュテルン!」

わたし達は思いきっリバトンを投げると、相手に向って飛び込んだ。そして2つのバトンが
交差した下で、互いの手をピタリと合わせた。その時、2人の体が白く先程より強く輝き、
2人の輝きが一つになるのを感じた。

(今だわ)

わたし達はすぐに手を離し、そこから更にジャンプし、落ちてきたバトンをとって、反対側に
降り立った。

「やったわ!!元に戻ってる!」

わたし達は言った。そして次の瞬間、わたし達はお互いをしっかりと抱きしめていた。

「メテオさんー」

「コメットーやったのよ、私達。」

「メテオ様〜/ひめさま〜」

「ムーク!/ラバボー!」

2人とも涙がとまらなかった。ー

ー☆☆☆ー

11/19 4:00

「もしもし、コメットのお母さん、どうやらうまくいったようね。」

「ええ、メテオさんのお母さん。でも2人の輝きを入れ替えたのは私達なのに、まさか
あの2人があそこまでやるとは思わなかったわ。メテオさん、素敵に成長されましたね」

「そちらこそ。それに、あの流れ星の力がなければ2人の輝きを入れ替えることも出来なかったし」

「お母様!どうもおおかしいと思ってたら、やっぱりあなた達だったんですね!コメットは
だませても、私はだまされませんよ!どうしてこんな事をしたの!」

「そ、それはメテオ、後で分かるわ。自分がどう変わったか考えて見なさいーじゃあね」

「チョット!待ってよ〜」

ーその時ひときわ大きい星が2つ流れていった

ー終わりー