コメットさん☆の日記「動画ビト」


11/15

 夜、わたしがテレビでアニメーション映画を観ていた。
それは「ルパン3世カリオストロの城2ーカリオストロの復讐」というタイトルで、有名な映画監督
の作品の続編で、前作で伯爵との政略結婚から救い出されたカリオストロ公国の王女が、伯爵のおい
の妨害を乗り越え、怪盗や色々な人の助けを借りながら園丁のおいと遂には幸せな結婚をする-という
ものだった。感動したわたしは、「自分もあの王女のような素敵な結婚をしたいな」
と思うと同時に、星国でも見ていたアニメーションというものがどのようにして作られているのかにも
興味を持った。そんな時、ティンクルホンが鳴った。母からだった。

「コメット。実はあなたにお願いがあるの。『動画ビト』があなたに聴きたいことがあるそう
なのよ。前にも言われたことがあったのだけれど、その時は断わっていたのよ」

「どうして?」

「ごめんなさい。実は-」
と言って話し始めた母の言葉を聴いて私は驚いた。自分が地球にきてからの行動が、30分位の
アニメーション番組にまとめられ、毎週ハモニカ星国で放送されていたのだ。

「そんなの、きいてないよ〜」
と思わず言ってしまったわたしに母は、

「ほんとうはすぐにあなたに知らせて了解をとるべきだったとも思うけれど、地球に来たばかりの
あなたがこのことを知ったら、意識して、あなたらしい行動がとれなくなってしまうと思ったもの
だから-でもね」

「姫様〜。みんな毎週姫様の番組を心待ちにしておるのです。わかって下され。」

「ヒゲノシタ」

「姫様が地球に行ってしまわれてから、星国の民は姫様のお帰りを心待ちにしており、その身を案じて
いる者もおります。そこで、皆に安心してもらうために、ここにいる取材ビトやカゲビトから集めた情報
などを基に姫様の地球でのご様子を皆に知らせておるのです。毎週姫様のご様子が見られるとあって
皆大喜びです。」

「そうゆうことなのよ。でも、あなたはもう十分成長したわ。これからはあなたが決めていいのよ」

「わかったわ。お母様。今止めたらみんなが悲しむでしょうから-でも、一つお願いがあるの。その番組、
私にも見せて」

「そうそう。忘れるところだったわ。実はその動画ビトがあなたの番組がどうもうまく出来ない、って
言っているのよ。色々な人に相談したけれど、原因がわからないので、あなたに直接聴きたい、と言って
いたわ。もちろん、今までの番組も見せてくれるハズよ。だから会って欲しいの。もう出発したから、
もうじきそちらに着くと思うわ」

「わかりました、お母様」

「それではよろしくたのむわね。」
そう言って電話は切れた。

それからしばらくして、わたしが自分の部屋から外を観ていると、星のトレインがやってくるのが見えた。
約3分後、カッコイイ青年がわたしの部屋に入って来た。背はわたしよりずっと大きく、190cm位で、
イマシュンやケースケとも違う「輝き」を持った顔をしていた。

「コメット様。はじめまして。動画ビトのヒデと申します。以前から是非一度お目にかかりたいと
思っておりましたので、光栄に思います。」

「はじめまして。来てくれてありがとう」

「おかげ様で、姫様の番組である、『コメットさま』は平均視聴率98%、輝きランキングでも
ダントツ一位でございます。」

「『輝きランキング』って?」

「あ、これは失礼いたしました。地球では視聴率が重視されているようですが、星国では視聴率よりも
『その番組からどれだけ輝きを感じたか』をモニター調査して毎週発表される『輝きランキング』の方が
大切にされています。この『輝きランキング』が低い番組は視聴率が高かったとしても、休止されたり、
内容が変更されたりすることがあるのです。」

「そうだったの。知らなかったわ。ところで、わたしに聴きたいことって」

「それをお話する前に、まず、星国のアニメ番組がどのようにして創られているかをお話ししたいと思います。」
そう言って彼は細くて長いエンピツのようなものを出し、次にそれを振って白い紙のようなものを出した。

「これはティンクルペンといって、姫様のティンクルバトンに相当するものです。星国では、これに星力をため、
原画ビトが描いた原画に基づいて星力でこのティンクル・セルに絵を描いていきます。」

わたしが見ていると、たちまちわたしの顔が現れ、それに色がついた。それから数分でパジャマ姿のわたしの
絵が出来あがった。

「すご〜い!」
とわたしが感心して言うと、

「姫様。これからが大変なのです。次にこれに動きをつけなければなりません。動きに合わせて少しづつ姿勢を
変えた絵を何枚も描き、それをこうやると、動いて見えるのです。」

動画ビトはティンクル・セルの束を取り出し、それをティンクルペンの力でめくりながらそう言った。

「わかったわ。私があくびをしている所ね。一回の番組で何枚位描くの?」

「地球では1秒当たり2枚位の絵が必要とされているそうですが、星国ではその倍の1秒当たり約4枚の絵が必要です。
よって、大体6000〜7000枚位になります」

「そんなに!」

「それだけではありません。次が一番大変なのです。こうして出来たティンクル・セルは『輝きチェックビト』
によって『輝きチェック』を受けなければならないのです」

「輝きチェックビト?」

「輝きチェックビトはティンクル・セル等からの輝きをチェックする人で、その長は番組製作者の責任者です。
地球では『監督』と呼ばれる人がそれに相当するようです。姫様、この2枚の絵を御覧下さい。」

そう言って動画ビトは一見全く同じに見える2枚の絵を見せてくれた。

「この絵の違いがわかりますか?」

「わたしが星力を集めている所ね。-同じに見えるけど」

「よく御覧になって下さい。今の姫様ならわかると思います」

わたしは少し注意して観ていたが、すぐにあることに気付いた。

「わかったわ。この左の絵は右に比べて輝きがない」

「さすがは姫様。その通りです。この左の絵が輝きチェックビトによってボツにされたもの、右がOKとされたもの
です。このように、ボツになるものもあるので、実際には9000〜10000枚位描いています。動画ビト一人
当たり500〜1000枚位です。私も最初の頃はなかなかOKが出なくて苦労しました。」

「一枚描くのに、どれ位かかるの」

「私は今は週に1000枚描いていますが、大体3〜4分ですね。最初の頃は倍位かかってました。」

「一人で1000枚も!大変ねー」

「こうして出来た絵を今度は撮影ビトが撮り、映像を作ります。そして、これに声マネビト、音楽ビトなどが
セリフや音をつけていきます。地球ではプレスコといって、映像を作る前に音を入れて作る場合もあるようですが、
星国では全てこのオフレコ方式をとっています。この時また輝きチェックが入り、その後試写をして最終の輝き
チェックをしてようやく完成となります。おわかり頂けましたでしょうか」

「大変なお仕事、ご苦労さま。よくわかったわ。でもあなたはどうして地球のアニメーションのこともよくわかるの?
あ、そうか、前にも地球に来たことがあるのね。」

「おっしゃる通りです。5年くらい前に一度、1年間地球に留学して勉強しました。本題に入りますが、このように
して番組をつくっているうちに、私は次第にある違和感を覚えるようになりました。輝きチェックビトや色々な人に
相談したのですが、なぜかはわからず、とうとう私の描いた絵の大半が輝きチェックを通らなくなってしまいました。
今からこれまで放送された番組をお見せしますから、私がどうして違和感を感じたかお教え下さい。姫様なら、きっと
おわかりになると思いますから」

「それはわからないとおもうけど、とにかく見せてください。」

「わかりました。」
動画ビトはメモリーボールを取り出すと、ティンクルペンを振って、私の番組を写してくれた。

 わたしは夢中になって自分が写っている番組を観た。とても良く出来ていて、おもしろかった。感謝の気持ちで
胸がいっぱいになった。
 3つ位見た後で、動画ビトはおそるおそる「姫様、いかがですか」と聞いてきた。

「とても良く出来ているわね。ありがとう。感動したわ。」

「ありがとうございます。そうですか、ではこちらを御覧になって下さい。今度はきっとおわかりになると思いますから」

わたしはさっきより注意深く映像を観た。すると、「何かちがう」と思い始めた。もう3つ位観た所で、わたしは
ようやく気づいた。この番組があまりにもよく出来すぎていたことにーたとえば、わたしがミラさん達と一緒に星力を
集めに行った時、メテオさんからわたしが間違った事をしている、と言われたシーンがカットされていたのだ。改めて
他のものも観てみると、わたしの失敗や間違った事をしたシーン、悲しみに沈んでいるシーン等のほとんどがカットされて
いた。これでは自分の本当の姿が伝わらないー」

このことを伝えると、動画ビトは

「やはりそうでしたか!よくおわかりになりましたね!姫様に観て頂いて本当に良かった!」
と感激したようだった。

「でもわかるわ。その気持ち。だってわたしはハモニカ星国の王女ですもの。きっとわたしのことを出来るだけ良く
描こうとして無意識のうちにしていただけなのよ。」
そうわたしが言った時、メモリーボールに50才くらいの男性が写し出され、

「姫様。申し訳ありません。本番組の輝きチェックビトの長、マーズと申します。実はヒゲノシタ侍従長の御命令で
このように番組を作らせたのでございます」
と遠慮がちに言うのが聞こえた。

「これ、わたしのせいにするな。」
とヒゲノシタ侍従長が突然顔を出した。

「ヒゲノシタ!」

「姫様。これにはいろいろとワケがありましてー」
というヒゲノシタの声をさえぎって、わたしは

「マーズさん。これはハモニカ星国の王女としてのお願いです。これからはみんなにわたしの本当の姿を見せてあげて。」
と言った。

「かしこまりました。既に放送されたものも作り直させます。」

「しかし、姫様ー」
「ヒゲノシタもいいわね?」
「は、ハイ、姫様がそうおっしゃられるのであれば」

こう言って2人の映像は消えてしまった。

「動画ビトさん。これでもう大丈夫よ。」
と私がちょっとイタズラぽく笑いながら言うと、動画ビトは

「本当にありがとうございました。この御恩は一生忘れません。」
と目を少しうるませながら嬉しそうに言った。

「あんな素敵な番組を創ってくれていて、本当にどうもありがとう。これからもがんばってね」

「ハイ、頑張ります」

「最後にひとつお願いがあるの」

「ハイ、何でしょうか」

「実はー」
わたしがそれを話すと、動画ビトは胸をはって答えた。

「それなら簡単に出来ます。すぐに準備をいたしますので」

それから約10分後、わたしの生の映像がハモニカ星国じゅうに送られた。

「星国の皆さん。わたしの番組を観ていてくれてどうもありがとう。地球では楽しいことばかりではなく、
悲しいことやつらいこと、失敗したり、間違ったことをしてしまうこともあるけれど、たくさんの人から輝きを
もらって、元気に暮らしています。
いつになるかわからないけれど、きっと王子様を見つけることが出来ると思うから、待っていて下さいね。ー」

11/18

 動画ビトが帰っていった後、しばらくしてビデオテープが送られて来た。再生してみると、わたしの番組を
作り直したものだった。映像の中のわたしは以前よりも自然に、より輝いて見えた。同封された手紙には、その後、
あの動画ビトの絵が全て輝きチェックを通ったことが書かれてあった。ー

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注:「ルパン3世カリオストロの城2ーカリオストロの復讐」は私の初期の未発表の
作品です。また、現在の地球のアニメーションの製作方法についてはある程度事実に
基づいてはいますが正確に実態を反映しているわけではありません。