『メテオさんの涙 〜倒錯恋力編〜』

これは、作品内の時間軸でいうと、大体ミラ&カロンのタンバリン星国姉弟が来る直前にあたる。
藤吉家のベランダでバーベQパーティと洒落込むコメットさんとその一味を、メテオさんは庭の木の上から憎らしげに見下ろしていた。
メテオ「キーもうコメットが憎い憎い憎い!! なんであんなにモテモテで楽しそうなのよ!!」
ムーク「コメットさまの輝きが人を引き寄せるのです」
メテオ「そんなことわかってるわったらわかってるわ!! でも… キ〜!! くやし〜〜!!」
ムーク(わかってる…ですと!?)
ムークは、メテオさんが人の魅力を肯定する言葉を吐いたのに心底驚いた。しかしそれは、次の驚きにすぐにかき消された。
「ドサッ!」
地団太を踏みすぎたメテオさんは、足を滑らし、地面に落下した。
ムーク「姫さまっ!!」
メテオ「いった〜…
    なによ! 星力使うヒマもなかったったらなかったじゃないの!」
ムークはすかさず地面に降りた。そして、なかなか立ち上がらない事から、メテオさんが予想以上に重傷らしいと知った。
ムーク「…! すぐにコメットさまを呼んでまいります!」
メテオ「待ちなさいよ! 大した事ないから! …あつつ…」

所変わって、夜の風岡家。
「ピンポーン」
留子が呼び鈴に出ると、メテオさんを背負ったコメットさんがいた。
コメット「こんばんわです。メテオさんが足を怪我したので…」
留子  「まあ!! メテオちゃん大丈夫!?」
メテオ 「大丈夫に決まってるでしょ〜!! コメット!! 余計な事しないでちょうだい!!」
コメット「でも… 歩けないんでしょ?」
メテオ 「そ… そう…だけど……」
コメット「メテオさんの部屋は、どこにあるの?」
メテオ 「え!?」
コメット「足の怪我なら、ケースケのを治したことがあるから…」
メテオ 「いいわよいいわよ!! もうほっといてちょうだい!!」
留子  「ごめんなさいね、ご迷惑おかけしちゃって… あっ、メテオちゃんのお部屋はあっちね」
メテオ 「あ〜もう!! 人の話をお聞き〜!!」

二人は、メテオさんの部屋に移動した。
とりあえず、コメットはメテオさんをベッドに寝かせた。メテオさんは、諦めたのか、すっかりおとなしくなっていた。
メテオ 「もう…」
その態度に異常な違和感を覚えながらも、ムークはコメットさんに一通りの礼を言った。
ムーク 「すみません、コメットさま……」
コメットさんは軽く返事をしたあと、メテオさんの足を優しくなではじめた。手からほとばしる星力によって、痛みはどんどん消えていく。
メテオさんは、ちょっと困った表情をみせた。
コメット「どう…? 大丈夫…?」
メテオ 「ええ… もう痛くなくなったわ……」
コメット「よかった…」
そう言いながらも、まだ止めようとしないコメット。彼女の表情は、次第に『ヌイビトたちの夜』で我々に見せたような
神々しいものへと変わっていった。
その横顔をみながら、メテオさんは思った。
メテオ (なんて…かわいいのかしら…… 私にこんな表情できるかしら… …できないわよね…)
やがて、治療は終わり、コメットさんは笑顔で言った。
コメット「はい、治療おしまい!」
メテオ 「……」
メテオさんは、複雑な表情を見せた。
コメット「……、どうしたの? もしかして、具合悪くなっちゃった…?」
メテオ 「そ… そんなことはないわ… ……ありがとう…」
消え入りそうな声で、メテオさんはお礼を言った。
コメットさんは、今まで見せた事のないような満足げな笑顔を浮かべた。
コメット「よかった……」
ムークは、その光景をいぶかしげに見ていた。
ムーク 「………」
メテオ 「どうしたの? ムーク」
ムーク 「お二人とも… 顔が赤いですよ…」
コメット「えッ!?」
しばし間。
メテオ 「…そ… それはあれよ。部屋の空気が熱いからよ! や〜ねぇもう!」
コメット「アハハハ…」
二人  「アハハハハハ……」

その後、コメットさん帰りしあとの風岡家AM2時。
夢半分、意識半分という夢うつつの状態の中、メテオさんの脳裏をよぎるのは、昨夜の出来事について。
メテオ(くうっ… コメットに負けた……)
なぜかメテオさんは、そういう敗北感に身をよじらせていた。
メテオ(なんなのよ、コメット… この魅力的な私でもかなわないじゃないの… もし王子さまとコメットが先に会ったら、
    まずいわったらまずいわ…もしコメットに王子さまを取られたら、お母様に叱られるだけじゃ済まないわ… 
    カスタネット星国の未来も危ない… コメット…コメットのバカ…!)
不安は、次第に怒りへと変わっていった。
メテオ(あ〜もう! なんで私がこんな目に会わなきゃいけないのよ!! 今度コメットにあったらガツンと言ってやるんだから!!)
怒りのあまり、思わず目を覚ましてしまったところで、ふと、足元の気配に気づいた。
「!!」
足元では、ベッドに寄りかかる形で、コメットさんが静かな寝息をたてていた。
メテオ(コ、コメット!?)
良くみると、コメットさんはメテオさんの怪我した足を大事そうにそっと抱えていた。その事実で、カンのいい彼女は全てを悟った。

メテオさんの怒りは、すぐに驚きにかき消され、やがて、やさしさと悲しさが同居したような表情に変わった。
メテオ 「コメット……」
彼女は、コメットさんの両手から自分の足をなるべく気づかれないようにそっと抜いたが、コメットさんは目を覚ましてしまった。
コメット「あれ…? メテオさん… 起こしちゃった…?」
メテオ 「違うわよ。勝手に起きたの」
コメット「足、大丈夫?」
メテオ 「大丈夫…」
メテオさんは、ぷいとそっぽを向いた。
コメット「…良かった……」
メテオさんは振りかえらないまま、言った。
メテオ 「コメット、送っていくわ…」
メテオさんは、グースカと眠りこけているムークに向かって言った。
メテオ 「ムーク、起きなさい」
その一言で、電流を流されたようにビクッと起きるムーク。
ムーク 「は、はい姫様!! …あれ? コ、コメット様!?」
メテオ 「コメットは、私の足の治療に来てくれたの。今から送りに行くわよ」
ムーク 「は、はあ…」
コメット「ごめんね」
メテオ 「あやまる必要なんかないわ…」
ムークは、しばし呆然としていた。事態の突発さのせいだけではない。メテオさんが、変に優しかったからだ。
怒鳴らないし、イライラもしていない。急いでもいない。
それは、彼女の気性からはとても考えられない状況であった。

コメットさんを送り届けたのち、メテオさんの部屋は、いつもの夜の通りに戻った。
メテオさんは、ベッドの中でちいさくうずくまっていた。

(時間経過。本編第24話『タンバリン星国の姉弟』時)

以前よりたびたび出没していた謎のライダーの正体を突き止めようと、猛追跡をしていたメテオさんは、バイク男に連行され、
謎のマンションの前に到着。偶然コメットさん、ミラたんとも合流し、真相を知った彼女は上階へと向かった。
そして、星力が切れたカロンのもとになんとか全員到着。いきなりメテオさんはカロンを容赦なくひっぱたき、鋭い剣幕で
問い詰めた。
メテオ 「人をからかって、いたずらに人の気持ちを弄んで、ただで済むと思っていたの…!?」
しばしの沈黙。
カロン 「…ごめんなさい…」
メテオ 「ふん。わかればいいのよ、わかれば」
メテオさんはふっと優しい表情になり、手を差し伸べた。
メテオ 「…さ、助けてほしかったんでしょう?」
カロンが立ち上がるのを見届けると、ミラにいった。
メテオ 「この子をしばらく預からせていただくわ」
そして、カロンをムークにのせると、風岡家へと飛び立っていった。

その場に、ただ置き物のようにたたずんでいたコメットさんは、寂しげにつぶやいた。
コメット「私には、できないことだな…」
いつもの調子は崩さなかったが、その一言を発した瞬間だけは、彼女の心の中の見えない深淵が姿を現していた。
メテオさんを見る目は果てしなく遠かった。絶対に手に入らないステキなものを、ショーケースから見つめる時のような目だった。

(時間経過。本編第27話『ケースケの夢の実』時)

実りの秋の季節、地球でも収穫祭をやろうというコメットさんの提案により、藤吉家にて収穫祭を開催することが決まった。
さっそくラバボーの恋力でハートの招待状を友人知人に送った。
スケジュールの都合で来れなかったと思われるイマシュンとケースケをのぞいて全員集合し、みな地上で和気あいあいと
やっていた。
だが、一人メテオさんだけは、木の上でコメットを見下ろしていた。
メテオ (コメット… あなたは好かれているのね…… みんなに……)
そして、ムークに聞かせるようにつぶやいた。
「コメットったら、こんなに人を集めて何をする気かしら…?」
ムークはただの収穫祭だと即答した。メテオさんは適当な生返事を返した。
メテオ (そんなこと、わかってるわよ……)
そう、ムーク以上にそんなことはわかっている。質問したのは消臭のためだ。
この長年付き合っている侍従長に、自分の心の深部を隠すためだ。
メテオ (コメット… なにか、寂しそう……)
しかし、その本音はおくびにも出さず、彼女は星力を使って、他の木へとターザンのように移動して行った。
何も言えない。気づかれてもいけない。自分は、カスタネット星国の姫という身分なのであるし、コメットを困らせる事にもなってしまう。
言って得な事などない…

下では、コメットさんがネネちゃんたちと遊んでいた。
その横を、景太朗パパが急いでどこかに行こうとしていた。
ネネ  「どこ行くの?」
景太朗 「もう一人、収穫祭をやるヤツがいるんだよ…」
つよし 「もう一人?」
パパはその質問には答えず、黙ったまま急いで行ってしまった。釈然としないところに沙也加ママが来て、かわりに答えてくれた。
沙也加 「今日はちょうど、ライフガードの選出大会の日なのよ。『努力の収穫祭』って意味ね。きっと」
つよし 「教えてくれればいいのに」
ネネ  「応援しに行ったのに」
沙也加 「でも、応援してくださいなんて言う子じゃないから、きっと、パパにも黙っててって約束したのね」
コメット「応援しに行くなんて言ったら、『バカ、来るな』って言いますよね…」
落ちこみながらもちょっとムッとした口調になるコメットさんを、メテオさんは木の上から無言で見つめていた。

(時間経過)

気分転換にぶらぶら散歩をしているメテオさんは、買い物に出ていたコメットさんと、路上でバッタリと会った。
メテオ 「あら、コメット」
コメット「あ、メテオさんもお買い物?」
メテオ 「まあ、そんなところね(本当は違うけどね)」
コメット「…えっと…」
メテオ 「なに?」
コメット「あの時の足… 大丈夫だったよね…?」
メテオ 「…!?」
あまりにスパンの長い疑問に、メテオさんはあきれた。
メテオ 「大丈夫もなにも、もう何回も私が歩いているの見たでしょう!?」
コメット「そうだけど… 気をつかって痛くないフリしてるのかなって…」
メテオ 「ホホホ… わ、私がそんな事するわけないじゃないのったらないじゃないの…」
コメット「…私は… そんなことないと思うな……」
もじもじしながら、コメットは黙ってしまった。
コメット「あっ、じゃあ、もう行かなきゃ……」
コメットさんは、逃げるように去った。
メテオさんは、ただ立ちつくしていた。

夜の風岡家。
メテオ「ただいま」
幸治郎「おかえり、メテオちゃん」
留子 「メテオちゃん、明日から北海道に行かない?」
メテオ「な、なによいきなり」
幸治郎「いやわしらも、たまには旅行に行きたいと思ってな」
留子 「北海道はいいわよ〜 道幅も広いし」
メテオ「…、私、ちょっと気分がのらないから、お留守番でいいわ…」
幸治郎「そうかい? 残念だなァ……」
留子 「う〜ん、それじゃあ、メテオちゃんに家事を教えなきゃ…」
メテオ「ごめんなさい、やっぱ行くわ」
ムーク(さすが、なんと変わり身の早い…)

メテオさんの部屋。
メテオさんは、ベッドの上で日本地図を広げていた。
メテオ「北海道…北のほうにあるのね。地球単位で800キロくらいっていうと、結構遠いわね」
ムーク「星力で移動できない距離ですし、景色もいいらしいですから、いい旅じゃないですか?」
メテオ「そうかもね…」
メテオさんは、立ちあがり、電気のスイッチの方へと歩いて行った。
メテオ「もう寝ましょう、ムーク」
ムーク「おやすみなさいませ、姫様」
電気が消え、室内は星明りだけになった。
メテオ(何日か、コメットに会えなくなるわね… …できれば、あの言葉の意味を聞いてから行きたかったわ…)
目を瞑っていると、コメットの姿が浮かんでは消えた。
メテオ(コメット… あなたは何も話さないわね…… …それは私もね… …話せるわけない…)

翌日の夕方、メテオさんを含む風岡一家は国内線で北海道に到着後、タクシーで旅館へと移動していた。
メテオ「あ〜、疲れた……」
メテオさんは、狭い機内に長時間閉じ込められるという状況で、すっかりやつれていた。
留子 「まあまあ、もうすぐ旅館だから…」
メテオ「わ、わかったわ…」
幸治郎(こんなに覇気のないメテオちゃんははじめて見たな)

旅館内。
一通り建物を見まわったあと、自室に幸治郎が戻ると、メテオさんは既に布団をしいて寝ていた。
幸治郎「やっぱ疲れたんだねえ」
留子 「疲れたんでしょうねえ。ボロっちい旅館だってさっきまで文句言ってたのにねえ…」
幸治郎「ははは」

しばし後の深夜。
あまりに早く寝すぎたメテオさんは、一人目がさめてしまったので、二人の迷惑にならないよう、そっと外に出た。
館外に出て、牧場で澄みきった星空を見ていた。
メテオ「寒いわね…」
星力で毛布を出し、羽織った。
メテオ「……そう言えば、コメットはどうしてるかしら… …どうもしてないわよね、一日経っただけだし…」
少し沈黙して考えたのち、メテオさんは、星のスクリーンで様子を見てみることにした。いつもなら、黙っていても、
ムークやへの6号からの情報でコメットの動きは手にとるようにわかる。しかし、今は自分しかいない。
メテオ「シュテルン!」
きらめく星力が空に舞いあがり、上空に枠ができる。そしてその中には、藤吉家とコメットさんの様子が映った。
コメットさんは、こっちの方を見て、驚いていた。
メテオ (こっちを見てる…!?)
スクリーンには、思いっきり動揺するコメットさんの姿が映っていた。
メテオ 「コメットは、私が見えている! …ということは、コメットも私を見ていたというの……?」
コメットさんは、あまりに虚を突かれたので、動揺のあまり、動物的な反射で逃げようとした。
メテオ 「あ… お、お待ちなさい!」
メテオさんは、星力で引きとめようとした。しかし、距離が距離だし、よく考えるといつもの『一本釣り』はできない。
少し考えたが、もたもたしていると逃げられてしまう。
メテオ 「ええい、考えるより…シュテルン!!」
コメット「エトワール!」
その時、たまたまコメットさんもスクリーンを消そうとして星力を使った。
しかしその星力は、スクリーンを消す事はせず、突然星のトンネルを生み出した。コメットさんは、その星のトンネルに
飲みこまれた。
メテオ 「コメット…!?」
メテオさんは、スクリーンを必死に覗いたが、コメットさんの姿はそこにはなかった。
思考が停止し立ちつくすメテオさん。
「ゴーン!」
その時、突然頭上で鐘のような音が鳴った。
メテオさんが見上げると、なんと星のトンネルの出口からコメットが落下してくる姿が見えた。
コメット「きゃあーっ!」
メテオさんは、落ちてくるコメットさんを反射的に受けとめ倒れた。
コメットさんはすぐに起きあがり、下敷きになったメテオさんに心配そうな顔で話しかけた。
コメット「あ、ご、ごめんなさい!! 大丈夫!?」
メテオ 「コ…コメット… どうしてここに…!?」
コメット「え…? メテオさんが…星のトンネルを作って呼んだんじゃ…?
     メテオさんが星力を使ったのが見えて、星のトンネルができて…」
メテオ 「ち、違うわよ… 大体、私じゃ鎌倉から北海道までの星のトンネルなんて…」
コメットは、ちょっと残念そうな顔をした。
コメット(そっか… 呼んでくれたのかと思ったのに…)
メテオ 「わ、私には… コメットが星のトンネルを作ったように見えたけど…」
コメット「メテオさんができないようなこと… 私にはできないもん…」
メテオ 「それじゃあ… 私にもコメットにもできないのなら誰が…?」
コメットさんは周りを見渡したが、誰の気配もない。
コメット「誰もいないみたいだけど…」
しばらく考えていたメテオさんは、結論に行き当たった。
メテオ 「私と… コメットの両方の星力がやったってこと…?」
コメット「! …でも…そうかもしれない…」
メテオ 「…」
コメット「私…メテオさんに会いたかったから…」
コメットさんは恥ずかしそうにうつむいた。
メテオさんはそっぽを向いて、かろうじて答えた。
メテオ 「奇遇ね…私もよ…」
コメット「え…?」
メテオ 「私も、会いたかった…」
コメット「…メテオさん…?」
メテオ 「…、あなたは… 私のこと…好き…?」
コメット「え……?」
メテオさんの追い詰められたような真剣な声に、コメットも真剣に答えた。
コメット「う…うん……」
真っ赤になりながら答えた。
メテオ 「…そう…… 私はあなたに会いたかった… コメットも私に会いたかったのなら…」
コメット「星力が…」
メテオ 「それでも… 800キロは普通じゃ超えられない…」
コメット「…」
メテオ 「やっと… あなたの気持ちがわかったわ……」
メテオさんは、コメットさんを優しく抱きしめた。
メテオ 「…思いは…一つだったのね……」
コメット「……メテオさんも……」
メテオ 「……そう……」
コメットさんの顔が、ぱっと明るくなった。
二人は、しばらく抱き合っていた。
痩せた体から、肩の小ささ、体温、震え、鼓動。全てが伝わってきた。



コメット「…」
メテオ 「…でも、かなわない夢なのよね……」
コメット「……」
メテオ 「……私たちは一国の姫…… こんな恋は… 国を滅ぼす事になる……」
コメット「………」
メテオ 「…だから… 忘れましょう……」
コメット「…………」
コメットさんの目から、大粒の涙がこぼれおちた。
メテオ 「泣かないで… コメット……」
コメット「…だって…だって………」
メテオさんは、諭すように言った。
メテオ 「…コメット… 輝きは… 一つだけじゃないのよ……」
コメット「……?」
メテオ 「この星だけでも、輝きはたくさんある…… だから… 悲しむ事なんてないの……」
そういうメテオさんの目にも、うっすらと涙がうかんでいた。
この言葉はコメットを慰めるためでもあり、自分を納得させるためでもあった。
メテオ 「コメットは、たまたま輝きに悲しい巡りあいかたをしただけ…… 
     でも、そんな悲しいめぐり合い方ばかり続くわけないわ……
     輝きは私だけじゃない… きっと、次はもっと大きい輝きに会える… だから泣かないで……」
コメット「私… 王子様なんて探したくない… ずっと一緒にいたい……」
メテオ 「……!」
メテオさんは、コメットさんを涙目で見つめたあと、慰めるように優しく言った。
メテオ 「私は… 王子様を探さない……」
コメット「……?」
メテオ 「私から探す事はしないわ… コメット、あなたが探すのよ…… 
     なるべくゆっくり… 見つからないように探しなさい……」
コメット「……、うん……!」
メテオさんは、涙をふいて、ゆっくりと立ちあがった。
メテオ 「さあ… そろそろお帰りなさい…… 誰かに気づかれるかもしれないから…」
コメット「…うん……」
コメットさんも立ちあがり、涙をふいた。
そこで、問題に気づいた。
コメット「あっ… でも、どうやって帰ろう…」
メテオ 「そ、それもそうねぇ…」
コメット「…でも、今ならできるかな…」
コメットさんは、トゥインクルスターに手をかざした。
トゥインクルスターはハート型へと変わり、コメットさんはラブリンモードに変身した。
コメット「エトワール…!」
コメットさんは、ちらりとメテオさんの方を見たあと、呪文を唱えた。
恋力によって目の前に星のトンネルができ、自分の部屋の中が見えた。ラバボーが、なにも知らずに
平和な顔をして眠りこけていた。
コメット「それじゃあ… メテオさん……」
コメットは、わざとそっけなく帰ろうとした。
メテオ 「待って、コメット…」
コメット「え…?」
メテオ 「『今日は、何もなかった』ということにしておいて……」
コメット「……」
メテオ 「この事は人に知られてはいけない… お互いに忘れましょう…」
コメット「…うん……」
メテオ 「でも… この気持ちは本当よ…」
コメット「………」
コメットは、寂しく微笑んだ。
コメット「メテオさんの言った通り… きっと… 星の子達が助けてくれるよね……
     輝きは一つじゃないし… 生まれつづけてるんだから……
     それに、メテオさんはきっと、幸せになるもの……」
無言で見守るメテオさんの前で、コメットさんは星のトンネルをくぐり、消えていった。
そして、トンネルは閉じ、あとには平凡なの北海道の原野の光景が残った。

メテオさんは、再び毛布を羽織って、目を瞑り、深く考えた。
メテオ(輝きはたくさんあるんだし… これからも生まれつづける…… それは、まぎれもない事実…… 
    輝きに満ちた現実よ……でも… コメットほどの輝きには… もう会えないかもしれない…… 
    あれほど素敵な輝きが何個もあるとは…とても考えられないもの……
    私はまた嘘をついたのね… でも… ああ言うのが一番良かったわよね……)

(時間経過。本編第31話『マネビトさんがいっぱい』時)

珍しく沙也加ママが風邪で寝こみ、藤吉一家の世話に店番にと大忙しのコメットさん。
彼女が店の床を磨いている時に、ちょうどメテオさんがコメットさんの働く『ほんの気持ち屋』到着し、
窓から様子をうかがっていた。
しばらく観察していたムークが、口を開いた。
ムーク「…これは、シンデレラ作戦では…?」
メテオ「シンデレラ?」
ムーク「地球の御伽噺でして、かくかくしかじか…」
メテオ「まあ、それじゃあコメットったら、また私を出しぬいて王子様の気を引こうっての!?」
シンデレラのあらすじを聞いたメテオさんは、口実を得られたので、大急ぎで店の中に入っていった。
メテオ 「コメット!!」
コメット「メテオさん!?」
メテオ 「んも〜 一人でがんばってるなんでずるいずるい〜 私も手伝うわ!」
そう言って、半ば強引にコメットさんのモップを取り上げ、言った。
メテオ 「私にも掃除ぐらいできるし… 他にすることがあるんじゃなくって?」
コメットさんは微笑んで礼を言い、メテオさんに店番を頼んで、沙也加ママの様子を見に出かけた。
出て行くコメットさんを、メテオさんは優しく見つめていた。

そしてその後は知っての通り、メテオさんによって、異例の行列ができるまでに『ほんの気持ち屋』は繁盛したのであった。

(完)

<挿し絵:MZ1500さん>

*執筆時点での放映話数は31話まで。
*このSSを執筆するにあたって、某サイトさんのデータを非常に参考にさせていただきましたが、「こんなのに名前出すな」との意向のため、名前は挙げません。
*この作品はフィクションであり、本編とは一切関係ありませんのココロ。