コメットさんの日記-心の闇2「アフガンの輝き」


11/2
 夕食の後、ネネちゃんパパが読んでいる新聞に目が止まった。そこにはガレキの山に群がる人々と
黒い煙が写っていた。
「これは何?どこなの?」
「ああ、これはアフガニスタンという国の病院だよ。でも戦争で破壊されて大勢の人が死んだんだ。」
「どうして。ひどいわ。戦争とは何の関係もないはずの所を」
「アメリカという国から間違って攻撃されたらしい。-あれ、コメットさん-?まさか今度はあそこに
行くって言うんじゃないだろうな-」

わたしは既にあの木の所に向かっていた。「姫様、あそこはとても危険だボー。毎日のようにミサイルや
爆弾が落とされているって話だボー」
「だいじょうぶ。きっと星の子達がわたしを守ってくれるわ。ヌイビトさん達、わたしを新聞記者にして。
どうしてあんなひどいことをしているのか確かめに行くの。」
「わかりましたわ。久しぶりにヌイヌイいたしますわ」
変身後、私達は木のロケットでアフガニスタンに飛んだ。
「あの辺りに輝きが見えるボー。あそこに降りるボー。た大変だ、姫様、ミサイルがこっちに向かってくるボー」
と言われた方を見ると、2発の地対空ミサイルが迫ってきていた。
「お願い、星の子達、私達を守って」と言ってバトンを振った瞬間、目の前でミサイルが爆発した。わたしたちを
赤いバリヤーが包んでくれていた。「ありがとう。星の子達」
一方その時、もう一機の木のロケットが猛スピードで迫ってきていた。
「コメット、今度はどんな作戦を建てているのかしら。あなただけに行かせないわよ。〜」
「メテオ様。こちらにもミサイルが。」
「そっちがミサイルならこっちもミサイルよ。ムーク。迎撃ミサイル発射!」
「は、はい」
迎撃ミサイルは向かってきたミサイルに見事に命中した。
「ホーホッホ。まあザットこんなもんよ。」とメテオさんが言った直後、ステルス爆撃機が木に接触し、ロケットは
バランスを失って墜落していった。「どうしていつもこうなの〜。」「ヒメ様それはー」

「メテオさん。だいじょうぶかな。」
「だいじょうぶダボー。メテオさんもバリヤーをはれるボー」
私達はアスガニスタン北部のマジャリシャリフ近郊のある村に降りていった。

11/3
 次の日、早速私達は取材を始めたが、そこで見たものは予想をはるかに超えるものだった。壊れた家や車、傷つき、
希望を失った人々。空爆を行う飛行機やヘリコプターの爆音、遠くでミサイルや爆弾が炸裂する音、地雷で足を
吹き飛ばされた子供達ー。
アフリカに行く前の私ならとっくの昔に逃げ出していただろう。でも、あれ以来わたしは、人の「心の闇」が前より
見えるようになっていた。悲しみといかりに身をふるわせながらも何とか真実から目を背けないだけの強さが
与えられていた。しかし、初めて目の前に「死体」を見た時、あまりのショックに思わず、「ひどい、ひどすぎる!
わたしはこんなものを見るために地球に来たんじゃない!!」と叫んでしまった。その時、
「これは夢じゃない。現実から目をそらすな。それがおまえにとってどんなにつらく、悲しくてもー。おれはたくさんの
人から勇気をもらって目の前でオヤジが死んだ、助けることが出来なかったという現実を受け入れ、それを乗り越えること
が出来たんだ。おまえなら、この現実をしっかりと受けとめ、それを乗り越える勇気をもつことが出来る。自分の輝きを
信じるんだ」という、あのなつかしい声が聞こえた。
「ケースケ、ケースケなの!」わたしはようやく我にかえってあたりを見回したが、もちろんケースケの姿はどこにもなかった。
「ありがとう。ケースケ、わたし2度とあんなこと言わないわ。」そうつぶやいた時、いきなりタリバンの兵士が近寄って来て、
「許可証を見せろ」と言った。
「どうしよう」とわたしが困っていると、
「あら、すみません。この娘は私の社なんだけれど、今日はウッカリ許可証を持って来るのを忘れたみたいだわ。今回はこれで
見のがしてね。」と、サングラスをし、カメラをかかえた女性が兵士にドル紙幣を渡しながら言った。
「こりゃどうも。今度からは気をつけるんだぞ」と兵士は言って足早に去っていった。
「ありがとうございます。おかげで助かりました。」
「当然の事をしたまでよ。あ、わたしはニューヨークタイムズのバーバラよ。あの事件の直後からここにいるの。あなたは?」
「コメットです。昨日、日本から来ました」
「そう。じゃまだここのことはそんなに知らないわよね。」
「わたし、どうしてこんなひどいことになっているのか知りたくて。こんなひどい事、やめさせなきゃ。でも、どうしたらいいのか
よくわからなくてー。実はわたし、ここがアフガニスタンのどこなのかもよくわからないんです。」
「あなたそれでも新聞記者なの?ー昨日きたばかりじゃしょうがないかーねえ、これから、この村を囲んでいる北部同盟の司令官に
インタビューするのよ。一緒に来ない?あそこに私のジープがあるわ」
「ええ。」
私達は村を出て、北部同盟の陣地に向った。途中、バーバラさんはこの村のことを色々教えてくれた。
ここはマジャリシャリフという重要な町に近くにあり、そこを攻略するための拠点とするため、近く総攻撃が予定されていること。
村には1000人位のタリバン兵士の他に女性や子供を中心に、まだ、4、5百人が取り残されていることなどー
「だから、この村の人を助けるために何としても総攻撃の時間を聞き出したいの。あ、もうすぐ検問所よ。あなた許可証を本当に
持っていないの。最近チェックが厳しくなって、これがないとほとんど取材が出来ないのにー」
「ええ。ーそうだわ、それ、ちょっと貸して下さい。」
「いいけど、どうするの」
「これを見たら許可証の場所を思い出せそうなんです」
「わかったわ。ハイ」
「ありがとう。バーバラさん。見つけたわ。これでいいでしょ?」と星力で作った許可証を見せながらわたしは言った。
「そうね。なんだあなた、うちの日本支局じゃない。どうしてそれを早く言わないの」
「すみません。まだ会ったばかりで、とても信じてもらえないと思って。」
「さ、着いたわ」
私達は北部同盟の司令官、マフード大佐に話しを聴いた。なぜ、この村を攻めるのか。なぜ、幼い子供や女性など、
兵士ではない人まで殺そうとするのか。などー大佐は紳士的な人で、私達の質問に丁寧に答えてくれた。
「われわれがなぜこの村を攻めるのかーそれはこの村に住むタリバンの兵士から私達の家族を守るためだ。もちろん兵士の中には
家族を殺された者もいる。私もその一人だ。」
「でも、そのためにこの村の人達を殺すなんてーやめて下さい。いのちの輝きを消さないで」とわたしは言ったが
「輝き?そんなものはこの国にはない。ただ暗闇と苦しみ、悲しみがあるだけだ」
「いいえ、確かにこの国には苦しみ、悲しみもたくさんあるけれど、わたしはこの国の人に輝きを見ました。ここにいる
バーバラさんの中にもです。」
「おまえ達の家族が敵に殺されたらどうする!家族を殺された者の気持ちがお前達にわかるか!もういい、出ていってくれ。」
「マフード大佐!」
「もういいのよ。コメット。わかったわ。わたし達は明日この村を出るわ。」
「バーバラさん!」
「そうか。じゃついでに教えておこう。これは誰にも言うなよ。我々はあさっての午前0時にアメリカ軍と共に総攻撃を開始する。
早く逃げるんだな」
「わかってるわよ。コメット、何をグズグズしているの。早く行くよ」
「は、ハイ」
私達は直ちに村に戻り、今度はタリバンの守備隊長に話しを聴いた。なぜ、戦うのか、の問いには、彼もマフード司令官と同じ
答えだった。わたしはどうしても納得出来なかった。帰りの車の中で考えこんでいると、
「コメット。どうしたの。」
とバーバラさんが話しかけてくれた
「わたし、マフード司令官も守備隊長のこともどうしても理解出来ないんです。もっとお互いに理解出来れば、
戦争なんてなくなるのにー。」
「そうね。でも、私はこう思うわ。わたしも初めはあなたと同じ、人は必ず理解し合う事が出来る、そう思っていたわ。
でも記者として、色んな人の話を聴いているうちに、中にはやっぱりどうしても理解出来ないこともある、ってことに少しずつ
気付いていったの。人にはその人にしか理解出来ないことが多かれ少なかれあって、その事を認めてそれを尊重すること、
これがあなたの言う『輝きを大切にする』ってことじゃないかしら」
「『その人にしか理解出来ないこと』があるー」
「そう、でも不思議なことに、それを認めることが出来るようになると、かえってお互いの理解がすすむことにも気付いたの」
「ありがとう。バーバラさん。何だか少しすっきりしたような気がするわ」
「さあ、着いたわ。ここが今お世話になっている、ムハンマドさんの家よ。彼女は私の協力者で、ここに残っている女性達の
リーダーなの。」
「ようこそ。わたしがムハンマドよ」
「コメットです。よろしくお願いします」
「姫様、この人すごい輝きだボー。センサーに反応したのはこの人に違いないボー」
「シッー。ラバボー。静かにして」
「え?」「いえ、ムハンマドさん何でもありません」
「さあ、中に入ってー」
私達は泥の壁で出来た家に入っていった。
 
 3人で色々話した後、わたしは寝袋に横になったが、なかなか寝付かれなかった。
しかし、これまでの疲れで、ようやく眠りに落ちた私は夢を見た。-
-カスタネット星国がハモニカ星国に攻めてきて、私の両親が住んでいる星のお城を攻撃している、という知らせを聞いて、
帰ってみると、既に城の大部分は破壊され、両親は崩れた壁の下敷きになっていた。
「おとうさま!おかあさま!」わたしがかけよると、メテオさんが現れて言った。
「コメット!とうとう2人の間に決着を付ける時がきたわね。あんたの親を殺したのはこのワタシよ。どう、にクイ?
クヤシかったらわたしを倒してごらんなさいよ。」
わたしはその時はっきりと自分の「心の闇」を見た。でもそれは一瞬で消えた。
わたしは「メテオさん。ごめんなさい。わたしは今まで無理をしてあなたのことを理解しようとしてきたみたいなの。
確かにあなたのしたことは私には理解出来ない。でも今はあなたにしか理解出来ないことがあることがわかったわ。」
「コメット、何を言っているの?。そっちが攻撃しないんならこっちからいくわよ!
勝った方が王子様と結婚出来るんだから。」とメテオさんが言った瞬間、真上の天井が爆発し、爆風が襲ってきた
ー次の瞬間、わたしはメテオさんを抱きかかえて少し離れた床の上にいた。
「よかった。助かって」「どうしてーわたしを助けたりしたの。」
「だから、人には自分にしか理解出来ないことがあるって言ったでしょ」

11/4
そこでわたしは目が覚めた。ようやく夜が明けかけていた。
「おはよう。よく眠れた?」
「イイエ。こわい夢を見てしまって-。両親が殺された夢なの」
「そう。私の父親もあのテロ事件の日に死んだけれどね」
「バーバラさん!すみません。わたし、バーバラさんのこと、ちっともわかってなかった」
「あら、いいのよ。昨日会ったばかりだもの。それより、後20時間以内に総攻撃が始まるわ、何とかしなくっちゃ。
オオー寒い。ここは標高が高いからもうすぐ本格的に雪が降ってくるのよ」
「雪-。ここは雪が降るんですか」
「そうよ。真冬だと-20度以下になって外での活動はしにくくなるわ」
その時、私はある「作戦」を思い付いた!「ねえ、バーバラさん。わたし、この戦争を止めさせるいい方法を思い付いたの。
聞いてくれる?」
「ええ。いいわよ」ーわたしは「作戦」の内容と自分の本当の姿を話した。
「ちょっと待って。あなた本気でそんなことが出来ると思っているの」
「ええ。星力さえ十分に集めることが出来れば。きっとできます。お願い。あなたの輝きを分けて下さい」
「信じられない。でもこれはあなたにしか理解出来ないことネ。やってみるわ」
「ほんとですか!じゃお礼にわたしの本当の姿を見て下さい。」といって私はバトンを出すと、変身した。
「ワオー。あなた本当にまだカワイイ子供だったのね。信じるワ」
「ありがとう。わたし、これから星力を集めにいってきます。もうすぐ夜が明けてしまうので-」とそこに
「コメット-ここで何やってんのよ」とムークに乗ったメテオさんがやってきた。
「メテオさん。丁度よかった。実は-」と私が「作戦」のことを話すと、
「これはカスタネット星国の王女として放っておけないことだわ。やらせて頂くわ」
「じゃーお願いね。わたしはこれから星力を集めにいくから」
「わかったわよームーク、日本に戻るわよ。タンバリン星国の姉弟とコメットのおばさんを連れてくるんだから。」
「ハイー」
「ラバボー。私達も行くよ。」
「ハイ、姫様。」
私達が去った後、バーバラさんは「オーマイゴット。わたし、どうかなりそうだわ」と言っていた。-
 こうして「暖かい雪」作戦が始まった。まず、バーバラさんがネットやラジオなどを通じて全世界に呼びかけた
「アフガンに平和を取り戻すため、今夜、皆さんの力を下さい。アフガンの人々のことを想うだけでいいのー」
それから、わたしと、メテオさん、ミラさん、スピカおばさんの4人も手分けして人々の心に同じメッセージを届けた。
攻撃開始の約2時間前、私達はアフガニスタン上空に集まった。
「星力、集まるかな」「大丈夫よ。コメット。さっき、あなたのお母さんから連絡があって、みんなの星力を乗せた
星のトレインがもうすぐ到着するそうよ。」
「おばさま。」「タンバリン星国からももうすぐ届きますわ」「もちろん、カスタネット星国からもよ」
「ミラさん、メテオさん。ありがとう」
「さあ、コメット。始めて。時間がないわ」「ハイ、おばさま」
私達はバトンを合わせて言った「一千億あまたの星の子たち。わたしに力を下さい。
みんなの平和を愛する気持ちを星力に変えて。エトワール!シュテルン!ミロワール!エトワール!」
すると、輝きが上からだけでなく、下からも、横からも集まってきた。
「これはバーバラさん、ムハンマドさん、ー下からよ。まだこんなに輝きが残っていたなんて。これはジョン君!
アフリカからだわ」
「コメット、あなた、輝きがどこから来たかわかるの?」
「ええ。メテオさん。わかるものもあるわ。輝きはみんな違うんだもの。ほら、これは日本からね。ネネちゃんやツヨシ君、
パパやママー。あ、ケースケのもあるわ」
アメリカ、ヨーロッパ、アジア、オセアニアー世界じゅうから輝きが集まってきていた。ー
「コメット様。星力、足りますか」
「ちょっと足りない気がするけど、わからないわ、ミラさん。あ、来たわ。これでもう大丈夫よ。」
ようやく星のトレインが到着し、星力を届けてくれた。続いてタンバリン星国からも。
そして、カスタネット星国の帆船からは「さあ、わがカスタネット星国からの輝きを受け取って頂戴。カスタネット砲発射!」
との声と共に緑色の光が放たれた。
「カスタネット星国らしいわね。メテオさん」
「もう、お母さまったら。ーコメット。もうそろそろいいんじゃない」
「ええ、もういいみたいだわ。みんな、分かれて。」
私達はアフガニスタンの国境線沿いに、東西南北に分かれた。私達がバトンを振ると、赤、黄、緑の光がそれぞれ出て、
アフガニスタン全土を囲む白い一つの輪となった。
「光が白くなったわ」「そうよ。コメット。色々な色の光が一つになると、白く見えるのよ」
「おばさま、そしてみんな。用意はいい」「ええ!」
私達は一斉にバトンを中央に向けると「一千億あまたの星の子たち。わたしに力を下さい。みんなの輝きを一つの輝きにして。
エトワール!シュテルン!ミロワール!エトワール!」と言った。すると、バトンから白い光が放たれ、中央で一つとなり、
たちまちアフガニスタン全土をおおう雲となった。そして雪が降り始めた。戦車が、地対空ミサイルが、こわれた家や人々の死体が
ーみるみる白い雪に覆われていった。



 その頃、地上では「雪よ!信じられない!あの娘達やったのね。さあ、ムハンマドさん。今のうちに避難するわよ」
「わかったわ。バーバラさん。さあ、みんなこっちへ」
とそこに「こんばんは。あなたがバーバラさんですか」とカロン君が来て言った。
「そうよ。あなたがカロン君ね。話はコメットさんから聴いているわ
「難民キャンプまでの雪のトンネルはもう出来ています。僕がそこまで案内しますから、この村の安全が確認されるまで、
そこにいて下さい」
「ありがとう」
バーバラさん達は雪のトンネルの中を進んでいった。一人の子供が言った「この雪、冷たくない」
「そうよ。みんなの暖かい心がつくり出したものですもの。だから冷たくないの。さ、行きましょ。」
そう言ってムハンマドさんは子供の手を優しくとって歩きだした。雪は激しく降り積もっていた。ー
「マフード大佐。ただ今、アメリカ軍から作戦中止の連絡が入りました。」「よし、わかった。我々も作戦を中止する」「はっ!」
マフード大佐は窓の外の雪を見ながら、
「これがあの娘の言った『輝き』なのかー」とつぶやいた。
やがて、朝が来ると、全土が雪に覆われたアフガニスタンが白く輝いているのが見えた。ーーーーーーーーーー
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「そうか。あいつもずい分成長したんだな。でも、オレがこうして時々様子を見ていることにはまだ気づいちゃいないみたいだけど。
おっと、この記憶は読まれないように封印しなきゃ、ってドウするんだー」
とケースケはコメットさん☆が持っているのとそっくりな、否、反対に巻いている白い貝殻を耳から離して言った。ー

<挿し絵:MZ1500さん>